叢書・ウニベルシタス 967
ライプニッツのデカルト批判 上

四六判 / 518ページ / 上製 / 価格 6,600円 (消費税 600円) 
ISBN978-4-588-00967-9 C1310 [2011年12月 刊行]

内容紹介

コギトの懐疑によって哲学を神学から解放したデカルト、そのデカルトに抗してモナド論的宇宙を構想したライプニッツ。ともに数学をモデルにした二人の哲学的天才の思索の原理を分析・比較し、その差異と対立点を徹底して内在的に読み解くことで、十七世紀西洋の科学的方法と新しい世界観を浮き彫りにした碩学ベラヴァルの思想史的傑作。全三部構成のうち、上巻には第二部までを収録。

著訳者プロフィール

イヴォン・ベラヴァル(ベラヴァル,Y.)

(Yvon Belaval)
1908-88年。フランス南西部の地中海に面した都市セートに生まれる。船員、関税検査官などの職を経た後、1941年に哲学の教授資格(アグレガシオン)を取得。ストラスブール大学講師、助教授、リール大学助教授などを経て、60年に同大学教授。65年からはソルボンヌ(パリ第一大学)で教鞭を執る。国際哲学会(IIP)事務局長、ライプニッツ協会(Leibniz-Gesellschaft)副会長、18世紀学会会長などを歴任。ライプニッツ哲学の専門家としてはもちろん、広く17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパ哲学、とりわけライプニッツのヴォルテールやディドロといった啓蒙の哲学者たちやヘーゲルへの影響について、数多くの重要な業績を残した。また、哲学史家としてだけでなく、文学者、詩人としても活躍した。著書は代表作である本書以外に、『ライプニッツ入門』(1961)、『ライプニッツ研究』(1976)、『詩の探究』(1947)、『ディドロの逆説なき美学』(1950)、『啓蒙の世紀──文学の歴史第3巻』(1958)など多数。死後にも『ライプニッツ─古典主義時代から啓蒙へ』(1995)、『ディドロ研究』(2003)などの遺作集が後進の手により刊行されている。

岡部 英男(オカベ ヒデオ)

1955年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。東京音楽大学専任講師。哲学・倫理学専攻。訳書にコプルストン『理性論の哲学』上・下(共訳、以文社)、ライプニッツ『人間知性新論』上・下(共訳、工作舎)、ブーヴレス『合理性とシニシズム』(共訳、法政大学出版局)など。

伊豆藏 好美(イズクラ ヨシミ)

1957年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士課程単位取得退学。奈良教育大学教育学部教授。哲学・倫理学専攻。著書に『哲学の歴史 第5巻 デカルト革命』(共著、中央公論新社)など。論文に「ライプニッツと「心身問題」」(『哲学』第37号)など。訳書にライプニッツ「普遍的総合と普遍的分析」、「チルンハウスへの書簡」(『季刊哲学』第1号)など。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序文
主題/その限定──ライプニッツのデカルト哲学への入門──一七世紀におけるデカルト主義の定義──われわれは方法と世界観を形而上学との結びつきの中で研究する/この研究の比較対照的方法

第一部 方法の精神
第一章 直観主義と形式主義
Ⅰ 方法の二つの局面
Ⅱ デカルトにとっての方法──精神の回心/ライプニッツにとっての方法──操作的技術/形式主義は空虚ではないし/機械的でもない/方法の二つの局面がライプニッツの批判を両義的なものにしている
Ⅲ 数学的範例から着想された諸理由の順序/デカルトはそれを自然学や形而上学へと拡張する/ライプニッツにおいて確実性は明証性ではなくなり、被定義項の決定は可感的記号により可能となる/デカルトとライプニッツの比較
Ⅳ デカルトの方法にとって不可欠な懐疑は、ライプニッツの目には単なる修辞的手続きに映った
Ⅴ デカルト主義は制限つきの独断論である──明証性を受け付けない一切の領域は、矛盾律にも支配されない/ライプニッツの独断論は不可侵の真理の連鎖に依拠しており、明証性には依拠しない/両者の独断論の比較
Ⅵ 両者の独断論の、外的世界の現実存在という問題への適用

第二章 革命と伝統
Ⅰ デカルトとライプニッツの態度の対照性/それは見かけほど明確なものではない
Ⅱ デカルトは歴史を、とりわけ諸学派の歴史を非難する/歴史は不確実である/歴史は不毛である/それゆえに幾何学の確実性と多産性から出発しなければならない/そのことでわれわれは学知の統一性を発見し、懐疑論の懐疑を方法的懐疑へと転換する/方法的懐疑とトリエント公会議/文献的学識の蔑視
Ⅲ 文献学者・歴史家としてのライプニッツ/〈観察ノ母〉としての文献的学識/歴史と懐疑論/歴史は蓋然的でしかないとしても豊かな認識をもたらす/デカルトは数学的な確実性しか認めないという誤りを犯した/宗教にとっての歴史の効用
Ⅳ ライプニッツの歴史哲学/普遍的調和/世代の連続性と人類の連帯/最善観と進歩/折衷主義/デカルト派の党派的精神に抗して/科学探究の組織化に関する『方法序説』第六部と『プルス・ウルトラ』の比較対照
Ⅴ デカルトは歴史を侮蔑したがゆえに哲学の歴史の推進者となったのに対して/歴史家でもあったライプニッツは歴史の哲学の先駆けとなった

第二部 数学的モデル
第三章 四つの規則への批判
Ⅰ 数学的モデルはデカルトとライプニッツにとって同じ内容でもないし同じ性質でもない
Ⅱ ライプニッツによって拒絶される明証性の規則/ライプニッツは可知的世界の学説を維持する/われわれの認識の直接的対象としての観念/観念はライプニッツにとって受動的ではありえない/観念は判断から分離されない/無意識/持続の連続性と、直観が現実には点的であることとは両立しない/含意されているもの、完全な観念と不完全な観念/明証性の主観性/内容の明証性を形式の明証性に置き換えねばならない/明証性から切り離された確実性
Ⅲ 真なる観念は定義によって保証される/スコラ派の定義へのデカルトの反論/逆にライプニッツは古典的論理学から着想を得る/デカルトとライプニッツにおける定義での分析と総合/名目的定義と実在的定義
Ⅳ 観念と想像力/デカルトによる場合/そしてライプニッツによる場合/想像力によって〔観念が〕曖昧になること/想像力の助け/記号法による想像力の超出
Ⅴ デカルトによる観念と言語/ライプニッツによる〔観念と言語〕/普遍言語の企て/観念の代わりにその表現を用いなければならない
Ⅵ 公理/公準
Ⅶ 他の三つの規則への批判
Ⅷ デカルトとライプニッツはそれぞれの流儀で自分の方法の確実性を生み出すものだけを数学から採り入れる

第四章 デカルトの幾何学主義とライプニッツの算術主義
Ⅰ デカルトの学説──デカルトは算術を好まないが、逆にライプニッツは算術から着想を得る/コギトの一性から〈思考されるもの〉の多数性へと進むデカルトは、ライプニッツのように抽象についての伝統的考え方に従うことができない/〈思考されるもの〉の二重の多数性(〈存在根拠〉と〈認識根拠〉)に対応する存在と〈直観〉の二重の連続性
Ⅱ 数の観念。形而上学的観念/延長と持続の介入をともなった数学的観念/計測/加えること/「そのときその都度」、瞬間の結びつき──序数と基数/算術的な連続性と不連続性/尺度を通した順序の自律的学問としての数学
Ⅲ 最大数の問題と/無限の可分性の問題
Ⅳ ライプニッツの学説──算術の特権/整数、一つの物質的実体に還元できない量、その原理はもはや一ではなく多、量を質に還元する傾向/表象、一における多の表出は、数の生得的観念を認識する機会をわれわれに与える/量の定義(共存によってのみ知られ得るもの)と質の定義(それ自身によって知られるもの)──算術的単位の観念/《これ》/幾何学的単位は算術的単位に従属する/算術的単位は多性を内含するかぎりにおいてのみ大きさを内含する/数──単位と同質なもの/加算/基数と序数/デカルトの学説との比較
Ⅴ 数の一般理論/算術的連続性/と推移の原理/実数と虚数/数、尺度の手段、デカルトにとってのように尺度の結果ではない
Ⅵ 最大数の問題/デカルトとの比較/様々な秩序の無限/ライプニッツの〈広大無辺〉とデカルトの〈無際限〉

第五章 代数幾何学と無限小算法
Ⅰ 算術に対する代数の三重の優位性──代数は想像力を軽減し、思考の順序を明るみに出し、数学的方法を一般化する
Ⅱ 代数と幾何学/幾何学は代数を制限する/代数は幾何学を制限する
Ⅲ デカルトの『幾何学』への批判──デカルトは代数を完成しなかったし、想像力から数字の混乱を取り除かなかった。彼は機械的曲線に専念できなかった、彼は尺度に従い、幾何学から計算への逆の移行を許さない。彼は結合法および無限についての学に対して代数を位置づけることができない
Ⅳ 無限なものの考慮はデカルトによって除去される/例えば、接線の決定/フェルマとの論争/サイクロイドの面積の計算/逆接線問題/デカルトはカヴァリエリに従う/ライプニッツはカヴァリエリを超える
Ⅴ 解析的ないし幾何学的求積、正確な近似値、比較不能なもの、様々な階数〔次元〕の大きさ、比較不能なものの学説の諸困難
Ⅵ 極限への移行/同質と同属/ライプニッツとデカルトにおける排中律の拒否
Ⅶ 無限算による比較不能なものから無限小量への推移/関数という観念/尺度を超えることと、あらゆる種類の曲線への計算の一般化/カヴァリエリとウォリスに対してのライプニッツの独創性
Ⅷ 無限小量概念の諸困難、それは直観に反する
Ⅸ 無限〔者〕の形而上学的問題
Ⅹ 結論──アルキメデス(ライプニッツ)対アポロニオス(デカルト)

原 注

◉下巻目次
第三部 世界観
第六章 自然学の基礎
第七章 自然学の諸原理
結 論
文献一覧/解説/訳者あとがき

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