M.エリアーデ(エリアーデ ミルチャ)
(Mircea Eliade)
20世紀最大の神話学者、宗教学者、宗教史家の一人。小説家としても多作であり、また内容豊かな自伝、回想録を残した。その一生は、しかし動乱の時代に翻弄された亡命知識人のそれでもあった。1907年3月9日、ブカレストに職業軍人の長男として生まれる。ゲーテの幼少年時代を彷彿とさせる自然、歴史、文学に対する広汎かつ本格的な教養遍歴の後、ブカレスト大学で哲学、歴史他を学び(1925-28)、インドの王侯の支援を受けてカルカッタ大学でインド哲学を学んだ(1928-32)。この成果は博士論文『ヨーガ』(1933)として結実した。帰国後ルーマニアを代表する新進の知識人、著作家、学者としてめざましい活動を続けたが、共産党の政権奪取により、1945年、フランスに亡命。デュメジル、バタイユ、ユング他、当時の西欧を代表する知識人たちと交流しつつ、主著『永劫回帰の神話』、『シャーマニズム』を上梓し、その神話学者、宗教史家としての名声を確立した。本書の執筆をきっかけとして、1956年合衆国シカゴ大学に招聘され、以降、1986年4月22日に亡くなるまで、合衆国で宗教史、宗教学の中心的存在として活躍した。晩年の大作『世界宗教史』は、普遍人類史的な宗教経験を概観した記念碑的業績である。
前野 佳彦(マエノ ヨシヒコ)
1953年福岡県生まれ。74年東京大学法学部中退。79年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了、80~84年シュトゥットガルト大学・ロンドン大学付属ワールブルク研究所に留学。84年シュトゥットガルト大学哲学部博士学位(Dr.phil.)取得。現在、博士後期課程大学院生を中心に〈文化記号塾〉主宰(http://bunkakigoujyuku.org/index.asp)。著書:Der Begri der Kultur bei Warburg, Nietzsche und Burckhardt(博士論文、Königstein/Ts., Hein Verlag bei Atenaum, 85)、『東洋的専制と疎外──民衆文化史のための制度批判』(私家版、87)、『言語記号系と主体── 一般文化学のための注釈的止観』(言叢社、06)、『散歩の文化学1・2』(法政大学出版局、09)、『事件の現象学1・2』(同)、『形而上の中世都市』(同、10)、『中世的修羅と死生の弁証法』(同、11)。訳書:W.ブルケルト『ホモ・ネカーンス』(法政大学出版局、08)、フランセス・イエイツ『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』(工作舎、10)、ヤーコプ・v・ユクスキュル『動物の環境と内的世界』(みすず書房、12)。
※上記内容は本書刊行時のものです。はじめに
序
第一章 成人式および未開の宗教における部族の加入礼
1 予備的な考察
2 オーストラリアの加入礼──聖なる場所(テラン)
3 母親との離別
4 クルナイ族のジェライル
5 ダラムルンとユイン族の加入礼
6 加入礼的な死の象徴体系(サンボリスム)
7 加入礼的試練の意味づけ(シニフィカシオン)
8 加入礼と共同体の更新
第二章 成人式および未開の宗教における部族の加入礼(続き)
1 加入礼上の試練──「うなり板(ブル・ロアラー)」と割礼
2 尿道切開(subincision)の象徴体系(サンボリスム)
3 ティエラ・デル・フエゴ諸島の加入礼
4 加入礼的な死の構成(セナリオ)
5 怪物に呑み込まれること
6 啓示の段階
第三章 秘密の祭祀の形をとる成人式
1 少女たちの加入礼
2 女たちの加入礼における諸段階
3 クナピピ
4 「子宮ヘノ遡行」の加入礼的象徴法
5 インドの加入礼における新しい誕生の象徴法
6 発生学的象徴法の多価性
第四章 個人的な加入礼と秘密結社
1 「冥府」巡りと英雄たちの加入礼
2 「シュンプレーガデスの岩」の加入礼的象徴法
3 個人的加入礼──北アメリカ
4 クワキウトル族の「踊りの結社」
5 秘密結社および「男たちの結社」(Männerbunde)
6 アメリカ・インディアンにおける儀礼的な木登
7 女たちの秘密結社
8 相互的な対抗関係と牽引
第五章 軍事的加入礼とシャーマンの加入礼
1 ベルセルクになること
2 クークランの加入礼
3 呪術的な焦熱の象徴体系(サンボリスム)
4 シャーマンの加入礼
5 シベリアのシャーマンたちの加入礼的試練
6 加入礼の諸儀式(Rites d’initiation)
7 脱自の技法
8 オーストラリアの呪医たちの加入礼
9 より発達した文化圏からの影響
第六章 大宗教における加入礼的主題
1 インド
2 古代ギリシアにおける成人式の痕跡
3 エレウシスとヘレニズム期の秘祭
4 キリスト教と加入礼
5 キリスト教的ヨーロッパにおける加入礼的モチーフの残存
6 加入礼的モチーフと文芸上の主題
7 本書の終わりにあたってのいくつかの考察
8 エピローグ
原注
訳注
解説 〈ディオニュソス的なもの〉と加入礼 (前野佳彦)
1 『死と加入礼』/『死の神話学』
2 〈現代〉における加入礼──〈集団の死〉と〈死体の霊的な意味〉
3 形態学──内在的方法の根拠としての加入礼の普遍性
4 祭祀(クルトゥス)における「即対自的なもの」(ヘーゲル『宗教哲学講義』)
5 殺す - 殺される - 死ぬ──加入礼的死の自己内行
6 農耕的豊饒と〈加入礼〉──『テミス』の世界へ
総索引
書評掲載
「図書新聞」(2014年4月19日号/奥山倫明氏・評)に紹介されました。