砂川闘争とは何か
連帯の民衆史

四六判 / 580ページ / 上製 / 価格 4,950円 (消費税 450円) 
ISBN978-4-588-31624-1 C0021 [2025年10月 刊行]

内容紹介

「土地に杭は打たれても心に杭は打たれない」。1950年代、東京の西部・北多摩地域で始まった、米軍立川基地の滑走路拡張計画への抵抗運動「砂川闘争」のスローガンとして、この言葉は知られる。本書は、警官隊との激しい衝突・流血・勝利を頂点とした従来の歴史解釈からはこぼれ落ちてきた存在や実践に初めて光をあて、砂川闘争の生きられた実相を描きなおす労作。現在と過去の対話の先に結ばれる「希望」の歴史。

著訳者プロフィール

高原 太一(タカハラ タイチ)

高原 太一(タカハラ タイチ)
1989年、神奈川県川崎市生まれ。中学2年時の社会科見学で砂川をめぐる。国際基督教大学3年次のフィールドワークで、砂川と「再会」。東京外国語大学大学院進学後も、砂川闘争研究を継続。2022年「米軍立川基地拡張反対運動の再検討──「流血の砂川」から多面体の歴史像へ」で博士号(学術)取得。現在、成城大学グローカル研究センター・ポストドクター研究員/大学非常勤講師。本書が初の単著となる。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 砂川闘争研究への接近
1 本書の対象と問題意識
 1‐1 教科書で描かれる砂川闘争
 1‐2 「衝突中心史観」を乗りこえるために
 1‐3 本書の問い
2 本書の方法と検討素材
 2‐1 砂川闘争との出合い
 2‐2 関係者との出会い
 2‐3 問題への気づき
 2‐4 砂川闘争を研究する!?
 2‐5 色川民衆史というヒント(あるいは壁)
 2‐6 砂川闘争史料群との向き合い方
 2‐7 色川の〈耳〉
 2‐8 ポスト民衆史のための方法
 2‐9 博論提出以降の研究状況
 2‐10 本書で加筆した部分
 2‐11 残された課題
3 先行研究と本書の位置
 3‐1 支援者に着目した研究潮流
 3‐2 地域/反対同盟の内部構成に照明を当てた研究潮流
 3‐3 本書の位置
4 各章の概要

第1章 正当・正統性──地元農家と「絶対反対」の論理
はじめに
1 「絶対反対」と「不服従」の論理──一九五五年六月三日の陳述
 1‐1 青木陳述にいたる過程
 1‐2 青木陳述の検証と考察
2 「絶対反対」と「不服従」の形成過程
 2‐1 一九四五年八月二日の「戦災」
 2‐2 一九四五年秋・冬の「無断接収」
 2‐3 一九四六年九月二一日の「土地賃貸借契約書」
3 「農民の念願」と「反対同盟の精神」──一九五五年九月二〇日の「陳述」
 3‐1 第三回目の青木陳述にいたる過程
 3‐2 青木陳述が開示したものの検証と考察
おわりに

第2章 介入──「基地問題文化人懇談会」高橋磌一の「砂川問題」
はじめに
1 砂川と出合う(一九五五年九月一三日、骨格測量初日)
2 砂川を語る(一九五五年九月二五日、「歴史教育者協議会第七回大会」)
3 砂川の教師と悩む(一九五五年一〇月三一日、座談会「基地砂川の教育」)
4 「仲間」を集う(一九五五年一一月から一九五六年一〇月)
5 ふたたび砂川へ(一九五六年一〇月一日から一五日)
6 砂川をつなげる(一九五六年一二月、「流血の砂川」直後)
7 砂川を再想像する(一九五七年八月、「第三回原水爆禁止世界大会」)
おわりに

第3章 包摂──「基地の教師」の砂川闘争
はじめに
1 サークル結成にいたる「前史」
 1‐1 砂川町における「基地拡張問題」の発生と教育環境への諸影響
 1‐2 「教師団」の結成と解消
 1‐3 砂中教師たちの闘争への参加と教室で発見された「基地拡張問題」
 1‐4 『教育の泉』特集から浮かび上がるサークル結成にいたる経緯と問題意識
2 北多摩における教育実践の諸系譜と砂中研究サークルとの関係性
3 方法をめぐる対話と交流
 3‐1 座談会「基地砂川の教育」への参加
 3‐2 「第五次教育研究東京集会」への参加
4 マルクス主義的思考方法との緊張
 4‐1 文化人たちの砂川への訪問と文集「スナガワ」への注目
 4‐2 「第五次教育研究全国集会」で生まれた「いきどおり」
 4‐3 理論と実感の対立緊張という問題系
おわりに

第4章 参加──地元中学生/傍らで観る者たちの砂川闘争史
はじめに
1 「爆音」をめぐる中学生たちの「問題意識」
 1‐1 住民としての「生活現実」
 1‐2 学生としての「生活現実」
 1‐3 進学を控える学生という〈状況〉
 1‐4 戦争・占領体験という「歴史」
 1‐5 がまんできないという「心的態度」
2 「傍らで観る」者たち
 2‐1 測量前の苛立ち
 2‐2 「くやしい」という「心的態度」
 2‐3 「願う」──「生活現実」と「問題意識」の矛盾から芽生える「内的行為」
3 「傍観者」からの転回
 3‐1 一一月の「惨事」
 3‐2 一〇月の旗
 3‐3 一〇月一四日の「スクラム」
 3‐4 「傍観者」から「参加者」への転回を経て、地域の「生活者」として生きる
おわりに

第5章 表象──写真家たちの「砂川闘争」
はじめに
1 「衝突」の写真──佐伯義勝「砂川」の考察から
 1‐1 佐伯義勝「砂川」
 1‐2 女性たちの一九五六年一〇月一三日
2 「顔」の記録──新海覚雄と向井潔の「砂川」
 2‐1 新海覚雄と「内灘」
 2‐2 新海覚雄と馬場家の人びと
 2‐3 「待機の時間」、「座りこむ女性たちの顔」
3 向井潔と新海覚雄の一九五六年一〇月
 3‐1 向井潔の不在
 3‐2 新海覚雄の不在
おわりに

第6章 共鳴──砂川からガザへ 収用/収容される/する者たち
はじめに
1 医療班を構成した人びと
 1‐1 基地に隣接する国立病院と国立療養所
 1‐2 佐藤乙一の「野戦病院」
 1‐3 名和寛二たちの「平和」
 1‐4 井上務の「責任」
2 収用と収容──いくつもの暴力が重なるとき
 2‐1 軍事施設に隣接するハンセン病療養所
 2‐2 砂川を詠う
 2‐3 「赤とんぼ」の歌声
おわりに

終章 多面体の歴史像からポスト民衆史へ
1 本書の総括
2 本書の貢献と残された課題
3 展望

補章 もうひとりの歴史家──警察資料が明かす砂川事件の実相
はじめに(問題の所在)
1 検討素材
2 基地内測量をめぐる警備警察のまなざし
3 準備測量をめぐる警備計画とその実相
4 米軍のまなざし
5 本測量をめぐる警備警察のまなざし
6 一九五七年七月八日
7 「教訓」が語るもの
8 二つの拡張
おわりに

あとがき

参考文献
図版出典
略年表
人名索引

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