その語源に否定的評価を隠し持つ「バロック」時代の音楽は、ルソーが述べたように混乱した、不自然なものだったのだろうか。当時を代表する理論家マッテゾンをはじめデカルト、キルヒャー、ライプニッツらの音楽論を参照し、多数の譜例と図版によりバロック音楽の楽理的特徴と歴史的・社会的背景を解き明かす。女性音楽家の活躍、新大陸への伝播も論じた決定的大著。付録CD-Rに楽譜やカラー資料を多数収録。
ベルンハルト・モールバッハ(モールバッハ ベルンハルト)
1949年、ドイツ、ラインラントプファルツの生まれ。ザールブリュッケン大学で音楽学、芸術史などを学ぶ。ザールラントなどで音楽関係の教職の後、1979年以降、ラジオ放送を通して古音楽の紹介、解説を続けている。放送局SFB(Sender Freies Berlin)、今日のRBB(Rundfunk Berlin Brandenburg)での番組は約6000回に及ぶ。その結実の一つが本書および『中世の音楽世界』『ルネサンスの音楽世界』(以上、日本語訳は法政大学出版局刊)の三部作となっている。放送の他、ライブなどを通して、古音楽の復活、再生だけでなく、それを今日に「生かす」ことに心を注いでいる。
井本 晌二(イモト ショウジ)
1943年に生まれる。東京大学文学部独文学科卒業。東京都立大学大学院修士課程(独文学専攻)修了。元・横浜国立大学教育人間科学部教授。訳書に、B. モールバッハ『中世の音楽世界』『ルネサンスの音楽世界』(以上、法政大学出版局)、H.-C. シャーパー『西洋音楽史・上下』、O. E. ドイッチュ他編『モーツァルトの生涯』(以上、シンフォニア)、共訳に、M. キンツィンガー『中世の知識と権力』、W. ハルトゥング『中世の旅芸人』、F. ライヒェルト『世界の体験』、N. オーラー『巡礼の文化史』、N. エリアス『時間について』、N. ビショッフ『エディプスの謎・下』(以上、法政大学出版局)、O. ボルスト『中世ヨーロッパ生活誌・上下』(白水社)、A. ボルスト『中世の巷にて』(平凡社)などがある。
※上記内容は本書刊行時のものです。まえがき
1 バロック音楽は存在するか──基本概念
バロック音楽の基本的特徴
余論──音楽はさまざまな情緒を表現できるか
アタナシウス・キルヒャー
音楽を理解しつつ聞くことと散漫に聞くこと
通奏低音とコンチェルト
合唱の協奏的演奏
通奏低音の成立
即興演奏の基礎としての通奏低音
通奏低音の番号付け
通奏低音の演奏
モテット的/モノディー的な通奏低音
音楽的弁論術
音楽的・レトリカルな音型
適用された音型論
2 クラウディオ・モンテヴェルディの『オルフェオ』(一六〇七年)は最初のオペラか?
マントヴァでの「オペラ初演」
『オルフェオ』の台本
宮廷オペラと宮廷の祝祭
オペラの故郷としてのアルカディア
オペラとオラトリオ
フィレンツェのレチタール・カンタンド
第二作法
『オルフェオ』におけるオペラアリアの「誕生」
『オルフェオ』における歌唱スタイル
冥界のオルフェウス
オペラにおける器楽音楽
さまざまな解釈
「切り刻まれる肉体」または「星になる」?
3 感情と知性 合理主義の精神世界における音楽
音楽と建築
ルネ・デカルト
数と情念
美学の根拠づけ
メロディー形成の基本原理としてのシンメトリー
デカルトと音楽的情念論
情念論の生理学
デカルトと現代医学
バロックの音楽的情念論
クーナウによる批判
中心的な情念
情念と感情
アンドレアス・ヴェルクマイスターと音楽における数学
バロック時代の中世的音楽観
音 律
再度、数と情念
マッテゾンのヴェルクマイスター批判
自然概念の導入
シャイベによるバッハ批判
自然─経験─創造・天才
4 ヨハン・マッテゾンと音楽上のジャンル──声楽
歴史意識と音楽史
メロディー対ハーモニー
対位法からカデンツへ
音楽的形式
形式対表現
情緒と形式
マッテゾンのジャンル論の基本的意図
コラール
アリア
アリア対リート
アリアの機能
レツィタティーフ
カンタータ
デュエット
合奏楽曲
セレナータ
バレエ
パストラーレ
オペラ
ディアローグ
オラトリオ
モテットとミサ曲
5 ヨハン・マッテゾン──器楽
声楽曲対器楽曲
メヌエット
ガヴォット
ブレー
リゴドン
行進曲とアントレ
ジ グ
ポロネーズ
アングロワーズとコントルダンス
パスピエ
ロンド──RondeauとRondo
フランスとイタリアにおけるチェンバロ音楽
フランス対イタリア、音型対情緒
サラバンド
クーラント
アルマンドと組曲
バロックにおける主題と変奏、アリアとパルティータ
ファンタジー
ソナタ
コンチェルト・グロッソ
シンフォニア
序 曲
6 諸侯の居城と市民都市、大都市の音楽
近さと遠さ──われわれの世界におけるバロック音楽
アムステルダム
ボローニャ
ドレスデン
ハンブルク
ライプツィヒ
ロンドン
マドリード
ミュンヒェン
ナポリ
パ リ
ローマ
ザルツブルク
シュトゥットガルト
ヴェネツィア
ウィーン
7 音楽による権力 ルイ一四世、絶対主義と芸術の道具化
アンシャン・レジームにおける音楽
芸術と王権
ジャン=バティスト・リュリ
太陽王の宮廷音楽
フランス的絶対主義における音楽
芸術、世界、生の秩序
宮廷の儀式における音楽
秩序としての政治とアカデミーの設立
ミシェル=リシャール・ド・ラランド
グラン・モテとプチ・モテ
バロックのテ・デウムとグラン・モテの形式
グラン・モテの名人たち
宮廷の祝祭の特権と機能
バレ・ド・クール
コメディー・バレ
抒情悲劇
グラン・バル・ドゥ・ロワ
ダンスの文法
事例研究──メヌエット
アンシャン・レジームにおける芸術と芸術家の道具化
8 楽器と作曲 バロックの響きの再発見
歴史的演奏習慣と現代的演奏習慣
楽器と作曲
倫理対美学
歴史的な「演奏美学」
歴史的な、伝統的な音楽の場面
バロック時代と演奏概念
響きの語り
作曲家対演奏家
音楽の聴き手と歴史的演奏習慣
バロックの楽器群
トランペットとフレンチホルン
ピストンの発明
偽バッハ・トランペット
シャリュモとクラリネット
フォーク・フィンガリング
バロックヴァイオリン
チェンバロの別れ
ハンマークラヴィア、ピアノとフォルテを持つグラヴィチェンバロ
9 男性世界における女性 バロックの女性作曲家
修道院の世界の女性作曲家たち
プロ的な音楽奨励の場としての修道院
宮廷とアカデミーの世界における女性作曲家
イタリアからフランスへ
10 征服者─伝道─インディオ 新世界におけるバロック音楽
CD市場
北アメリカ
植民地化と音楽の伝達
地 誌
副王国ヌエバ・エスパーニャ
ビリャンシーコ──教区民のための精神的な娯楽音楽
ヌエバ・エスパーニャにおける作曲家
副王国ペルー
クスコ
リ マ
ラ・プラタ(スクレ)
キューバ
ポルトガル領ブラジル
ミナス・ゲライスにおける諸芸術の隆盛
パラグアイのイエズス会国家
イエズス会のレドゥクシオンにおける音楽
旅の報告
付録 オスティナート──音楽的特殊世界
付録 アブラハム・ア・サンクタ・クララ『大悪党ユダ』第一巻
付録 ヨハン・リスト
付録 アウグスト・ボーゼ(通称タランダー)『皇帝レオポルト一世とスペインのマルガレーテ・テレジアの婚礼』
付録 主要作品のテキスト
訳者あとがき
主要ディスコグラフィー(新世界におけるバロック音楽)
オスティナート一覧
CDの内容について
参考文献
原 註
索 引
1 バロック音楽は存在するか──基本概念
バロック音楽の基本的特徴
余論──音楽はさまざまな情緒を表現できるか
アタナシウス・キルヒャー
音楽を理解しつつ聞くことと散漫に聞くこと
通奏低音とコンチェルト
合唱の協奏的演奏
通奏低音の成立
即興演奏の基礎としての通奏低音
通奏低音の番号付け
通奏低音の演奏
モテット的/モノディー的な通奏低音
音楽的弁論術
音楽的・レトリカルな音型
適用された音型論
2 クラウディオ・モンテヴェルディの『オルフェオ』(一六〇七年)は最初のオペラか?
マントヴァでの「オペラ初演」
『オルフェオ』の台本
宮廷オペラと宮廷の祝祭
オペラの故郷としてのアルカディア
オペラとオラトリオ
フィレンツェのレチタール・カンタンド
第二作法
『オルフェオ』におけるオペラアリアの「誕生」
『オルフェオ』における歌唱スタイル
冥界のオルフェウス
オペラにおける器楽音楽
さまざまな解釈
「切り刻まれる肉体」または「星になる」?
3 感情と知性 合理主義の精神世界における音楽
音楽と建築
ルネ・デカルト
数と情念
美学の根拠づけ
メロディー形成の基本原理としてのシンメトリー
デカルトと音楽的情念論
情念論の生理学
デカルトと現代医学
バロックの音楽的情念論
クーナウによる批判
中心的な情念
情念と感情
アンドレアス・ヴェルクマイスターと音楽における数学
バロック時代の中世的音楽観
音 律
再度、数と情念
マッテゾンのヴェルクマイスター批判
自然概念の導入
シャイベによるバッハ批判
自然─経験─創造・天才
4 ヨハン・マッテゾンと音楽上のジャンル──声楽
歴史意識と音楽史
メロディー対ハーモニー
対位法からカデンツへ
音楽的形式
形式対表現
情緒と形式
マッテゾンのジャンル論の基本的意図
コラール
アリア
アリア対リート
アリアの機能
レツィタティーフ
カンタータ
デュエット
合奏楽曲
セレナータ
バレエ
パストラーレ
オペラ
ディアローグ
オラトリオ
モテットとミサ曲
5 ヨハン・マッテゾン──器楽
声楽曲対器楽曲
メヌエット
ガヴォット
ブレー
リゴドン
行進曲とアントレ
ジ グ
ポロネーズ
アングロワーズとコントルダンス
パスピエ
ロンド──RondeauとRondo
フランスとイタリアにおけるチェンバロ音楽
フランス対イタリア、音型対情緒
サラバンド
クーラント
アルマンドと組曲
バロックにおける主題と変奏、アリアとパルティータ
ファンタジー
ソナタ
コンチェルト・グロッソ
シンフォニア
序 曲
6 諸侯の居城と市民都市、大都市の音楽
近さと遠さ──われわれの世界におけるバロック音楽
アムステルダム
ボローニャ
ドレスデン
ハンブルク
ライプツィヒ
ロンドン
マドリード
ミュンヒェン
ナポリ
パ リ
ローマ
ザルツブルク
シュトゥットガルト
ヴェネツィア
ウィーン
7 音楽による権力 ルイ一四世、絶対主義と芸術の道具化
アンシャン・レジームにおける音楽
芸術と王権
ジャン=バティスト・リュリ
太陽王の宮廷音楽
フランス的絶対主義における音楽
芸術、世界、生の秩序
宮廷の儀式における音楽
秩序としての政治とアカデミーの設立
ミシェル=リシャール・ド・ラランド
グラン・モテとプチ・モテ
バロックのテ・デウムとグラン・モテの形式
グラン・モテの名人たち
宮廷の祝祭の特権と機能
バレ・ド・クール
コメディー・バレ
抒情悲劇
グラン・バル・ドゥ・ロワ
ダンスの文法
事例研究──メヌエット
アンシャン・レジームにおける芸術と芸術家の道具化
8 楽器と作曲 バロックの響きの再発見
歴史的演奏習慣と現代的演奏習慣
楽器と作曲
倫理対美学
歴史的な「演奏美学」
歴史的な、伝統的な音楽の場面
バロック時代と演奏概念
響きの語り
作曲家対演奏家
音楽の聴き手と歴史的演奏習慣
バロックの楽器群
トランペットとフレンチホルン
ピストンの発明
偽バッハ・トランペット
シャリュモとクラリネット
フォーク・フィンガリング
バロックヴァイオリン
チェンバロの別れ
ハンマークラヴィア、ピアノとフォルテを持つグラヴィチェンバロ
9 男性世界における女性 バロックの女性作曲家
修道院の世界の女性作曲家たち
プロ的な音楽奨励の場としての修道院
宮廷とアカデミーの世界における女性作曲家
イタリアからフランスへ
10 征服者─伝道─インディオ 新世界におけるバロック音楽
CD市場
北アメリカ
植民地化と音楽の伝達
地 誌
副王国ヌエバ・エスパーニャ
ビリャンシーコ──教区民のための精神的な娯楽音楽
ヌエバ・エスパーニャにおける作曲家
副王国ペルー
クスコ
リ マ
ラ・プラタ(スクレ)
キューバ
ポルトガル領ブラジル
ミナス・ゲライスにおける諸芸術の隆盛
パラグアイのイエズス会国家
イエズス会のレドゥクシオンにおける音楽
旅の報告
付録 オスティナート──音楽的特殊世界
付録 アブラハム・ア・サンクタ・クララ『大悪党ユダ』第一巻
付録 ヨハン・リスト
付録 アウグスト・ボーゼ(通称タランダー)『皇帝レオポルト一世とスペインのマルガレーテ・テレジアの婚礼』
付録 主要作品のテキスト
訳者あとがき
主要ディスコグラフィー(新世界におけるバロック音楽)
オスティナート一覧
CDの内容について
参考文献
原 註
索 引
書評掲載
「音楽の友」(2019年1月号/小沼純一氏・評)に紹介されました。
「MOSTLY CLASSIC」(2019年2月号/安田和信氏・評)に紹介されました。