現代中国の腐敗と反腐敗
汚職の諸相と土壌

菱田 雅晴:編著
A5判 / 390ページ / 上製 / 価格 5,830円 (消費税 530円) 
ISBN978-4-588-62550-3 C3031 [2024年10月 刊行]

内容紹介

建国から改革開放を経て、習近平体制下のネット社会にいたるまで、共産党一党支配のなかで政治家や官僚、企業家の犯罪や不正行為が絶えない中国。社会の隅々で、膨大な腐敗事案はなぜ発生し、どんな力学で蔓延してきたのか。そして法令・紀律違反の摘発や告発(反腐敗)は、体制側によってどう利用されてきたのか。超大国のはらむ重大な国家的問題に深く多面的に切り込む最新共同研究の成果。

著訳者プロフィール

菱田 雅晴(ヒシダ マサハル)

菱田 雅晴(ヒシダ マサハル)序、第1章、終章
法政大学・名誉教授。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 【菱田雅晴】

腐敗学序説──なぜ今腐敗学か?
 はじめに
 1 腐敗学の基本構造
 2 腐敗研究の基本命題
 3 腐敗へのアプローチ
 小 括

Ⅰ 腐敗観──どのように捉えるか

第1章 腐敗学から〈中国〉腐敗学へ──パラドックスを超えて 【菱田雅晴】
 はじめに
 1 現代中国の腐敗パラドックス
 2 〈中国〉腐敗の特質
 3 〈中国〉腐敗学の基本アプローチ
 まとめ

第2章 権力社会と汚職のサイクル的構造 【天児慧】
 はじめに──問題の提起
 1 権力社会と腐敗
 2 腐敗と中国における法
 3 官僚の汚職取り締まりの組織
 4 改革派指導者:王滬寧の汚職・腐敗観
 5 反腐敗闘争と権力闘争
 6 習近平の腐敗に対する姿勢・対処方法
 結びに代えて──「清廉な政権」建設をめぐって

第3章 『アモイ日報』掲載記事にみる体制改革派・習近平の横顔──アモイ時代の反腐敗,開放政策,政治・経済改革 【鈴木隆】
 はじめに
 1 反腐敗運動の原点としての「税収・財務・物価大検査」
 2 経済協力を主眼とする開放政策の推進
 3 「慎重な改革派」による長期発展と政治・経済改革の計画立案
 おわりに

Ⅱ 反腐敗(摘発,通報)──どのように捕まえるか

第4章 比較の視座からみた中国の腐敗の特質──高官落馬と「帯病提抜」(腐敗潜伏しながら出世) 【毛里和子】
 はじめに──パラドックスに囲まれた中国腐敗学
 1 先行研究とそこから得た啓示
 2 中国の腐敗現象──八つのデータから
 3 中国の腐敗の特質に迫る
 4 中国における腐敗の六つの特質
 5 中国腐敗要因の抽出──ロシアと中国の比較
 6 中国型汚職が生まれる要因──三つの仮説
 おわりに

第5章 中央巡視組の「回頭看」──第一期習近平政権の巡視制度と幹部管理政策の新展開 【諏訪一幸】
 はじめに
 1 巡視工作の制度化と実践
 2 第18期中央巡視の「回頭看」
 おわりに

第6章 網絡反腐──ネット時代の「曇花」か「利器」か 【朱建榮】
 はじめに──研究の意義と対象
 1 「網絡反腐」の発展の経緯
 2 「網絡反腐」の代表的事例
 3 習近平時代の軌道修正
 展望──社会民主化の起点になるか

Ⅲ 腐敗空間──どこで起きているのか

第7章 「微腐敗」対策──農村における腐敗空間の生成と行方 【南裕子】
 はじめに
 1 農村部の微腐敗の概況
 2 微腐敗発生のメカニズム
 3 微腐敗対策
 おわりに

第8章 選挙における腐敗と中国共産党の支配──選挙制度にある「曖昧な空間」の利用 【中岡まり】
問題の所在
 1 選挙買収の事案の概要
 2 選挙買収が可能になる理由──共産党の支配のための「曖昧な空間」
 結 語

第9章 国共内戦下の末端幹部腐敗と建国後における都市行政のあり方 【橋本誠浩】
 はじめに
 1 東北・華北地域の都市における末端幹部の収奪行為と戦時動員体制 
 2 末端幹部の腐敗対策としての行政再編案
 3 南方都市で生じた末端幹部腐敗と都市行政
 おわりに

Ⅳ 腐敗磁場──何が起きているのか

第10章 対外援助と腐敗──日本のODA腐敗経験から見た“一帯一路:廉潔之路” 【岡田実】
 はじめに
 1 汚職逮捕/検挙数の推移をめぐる日中比較
 2 日本のODA史における四つの“失敗”
 3 日本の四つの“失敗”における「誘因」と「制約」
 4 中国の公共調達と対外援助における腐敗の「誘因」と「制約」
 5 “一帯一路:廉潔之路”に,日本の“失敗”経験は活かせるか?
 おわりに

第11章 幹部「四化」方針下の学歴腐敗 【厳善平】
 はじめに
 1 高学歴社会の形成と役人の高学歴化
 2 党校教育における学歴腐敗
 3 高等教育における学歴腐敗
 おわりに

第12章 中国建築業界における利益分配構造と「腐敗」・「搾取」の背景──「包工頭」の役割を中心に 【大島一二・刁珊珊】
 はじめに
 1 「包工頭」制度の歴史的展開と変遷
 2 建築会社等から「包工頭」への請負代金の配分──青島市現地調査を中心に
 3 実態調査にみる労働組織の実態
 まとめにかえて

Ⅴ 中国腐敗をどう捉えるべきか

第13章 中国における法紀型権力濫用──その変容と含意 【馬嘉嘉】
はじめに
 1 法紀型権力濫用の概要
 2 改革開放前の法紀型権力濫用
 3 改革開放前後の法紀型権力濫用の変容──時系列データを用いて
 4 まとめ
 おわりに

第14章 脱構築される習近平の反腐敗政策──「親清な新型政商関係」の構築をめぐる政治過程 【小嶋華津子】
 はじめに──問題提起
 1 法治と共産党の領導──業界団体・商会と行政機関との「脱鈎」 
 2 法治と伝統的倫理──「親清」な政商関係
 おわりに──法治と倫理の交錯がもたらすもの

第15章 プーチン期のロシアにおける汚職と反汚職──中国との比較を手がかりとして 【油本真理】
はじめに
 1 権威主義体制下における積極的/消極的反汚職
 2 反汚職に着手された背景
 3 反汚職の諸側面
 結 論 

終章 権・圏・銭──〈中国〉腐敗学から腐敗学へ 【菱田雅晴】

あとがき

人名索引
事項索引

《読者のみなさまへ》

本書のとりわけ第4章、毛里和子先生による「比較の視座からみた中国の腐敗の特質──高官落馬と「帯病提抜」」の章は、1989〜2021年10月まで、中国の最高ランクの官僚・軍人360名が腐敗で逮捕され、処罰されたデータにもとづいて執筆されたものです。

この膨大なデータは、公的通信社(新華社、人民ネットなど)、中国経済ネット、財経ネット、党政取締まり機関のネット(中央規律検査ネット、国務院監察部ネット、最高検察院ネットなど)、また主要な検索ネット(百度百科など)から収集・蓄積されたものです。

本書内に収録することも検討しましたが、紙幅に収まりきらないため、下記の中国基層研究所の note サイト上にアップしておくことにいたしました。

資料庫:中国落馬高官リスト

本書の101頁の注にも記載しておりますが、こちらを併せてご参照いただきますよう、お願い申し上げます。


■編著者 
菱田 雅晴(ヒシダ マサハル)序、第1章、終章
法政大学・名誉教授。

■著者
毛里 和子(モウリ カズコ)第4章
早稲田大学・名誉教授。

天児 慧(アマコ サトシ)第2章
早稲田大学・名誉教授。

朱 建榮(Zhu Jianrong)第6章
東洋学園大学・客員教授。

諏訪 一幸(スワ カズユキ)第5章
静岡県立大学 現代韓国朝鮮研究センター・客員研究員。

大島 一二(オオシマ カズツグ)第12章
桃山学院大学 経済学部・教授。

厳 善平(Yan Shanping)第11章
同志社大学 グローバルスタディーズ研究科・教授。

岡田 実(オカダ ミノル)第10章
拓殖大学 国際学部・教授。

南 裕子(ミナミ ユウコ)第7章
一橋大学 大学院経済学研究科・准教授。

中岡 まり(ナカオ カマリ)第8章
常磐大学 国際学部・准教授。

小嶋 華津子(コジマ カヅコ)第14章
慶応義塾大学 法学部・教授。

鈴木 隆(スズキ タカシ)第3章
大東文化大学 東洋研究所・教授。

油本 真理(アブラモト マリ)第15章
法政大学 法学部・教授。

馬 嘉嘉(Ma Jiajia)第13章
立教大学 アジア地域研究所・特任研究員。

橋本 誠浩(ハシモト トモヒロ)第9章
久留米大学 法学部国際政治学科・専任講師。

刁 珊珊(Diao Shanshan)第12章
桃山学院大学 大学院博士前期課程。