ものと人間の文化史 188
玉ころがし

四六判 / 370ページ / 上製 / 価格 3,520円 (消費税 320円) 
ISBN978-4-588-21881-1 C0320 [2022年07月 刊行]

内容紹介

永井荷風、尾崎紅葉、田村松魚、前田河広一郎、広津和郎、林芙美子、谷譲次、川崎長太郎、川端康成……。さまざまな文人たちによって記録された遊技「玉ころがし」とは何か。明治初期、香具師の露天営業で流行し、「ジャパニーズ・ローリング・ボール」としてアメリカへ伝播し、「スキー・ボール」にかたちを変え今日まで継承される。パチンコ誕生以前に興隆し消えていった幻の遊技の歴史をたどる。

著訳者プロフィール

杉山 一夫(スギヤマ カズオ)

1950年、横須賀市生まれ。1972年、同市在住の、若江漢字・栄戽夫妻に銅版画の手ほどきを受ける。以後独学で内外の国際展に出品。アンダーワールドの女性たちを描き、1982年、日本版画協会奨励賞受賞。受賞歴に、1991年、第3回ルブリン・マイダネク国際反戦芸術トリエンナーレ(ポーランド国立マイダネク美術館)準大賞受賞など。大英博物館ほかに作品収蔵。神奈川国際版画アンデパンダン展委員、日本版画協会委員、かながわ版画振興会事務局長を経て、1989年、昭和が消えるとともにパチンコのルーツ解明に挑む。2020年6月、パチンコ誕生博物館をオープンする。現在、日本版画協会会員、日本美術家連盟会員。著書に、『パチンコ誕生──シネマの世紀の大衆娯楽』(創元社、2008年)、『戦前からあった台湾のパチンコ』『コリントゲームと人生劇場』(ともにKindle版、2014年)ほか。2009年5月から日遊協広報誌に「パチンコ史」を1年間連載。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

相関図(バガテールの発展)

はじめに

第1章 ビリヤード(玉突き)とバガテール(玉ころがし)の起源
玉乃一熊『撞球指南』/東山昌川『球の撞き方』/江戸後期、ビリヤードとバガテールの伝来/バガテールになったビリヤード/シェイクスピア以前のビリヤード名称

第2章 江戸末期、バガテールが玉ころがしとなる
石井研堂『明治事物起原』/万延元年のハワイとジャカルタの「ビレタイホ」の記録/「貞秀版下西洋人玉突の圖」/広重の「異人玉轉之圖」/「大投玉」広告/日本版バガテール「玉ころがし」と「擲玉戯」

第3章 明治一一年、玉ころがし、新聞初登場
日本版バガテール使用の「博奕撞球」/明治一一年九月、玉ころがし、新聞初登場/明治一二年六月の東京市営業統計/明治一二年六月、宇津木信夫訳『弄玉集』/明治一二年のビリヤード場と吹矢場の鑑札

第4章 木村荘八『東京の風俗』の玉ころがし
明治一二年、東京市中での玉轉営業願い/明治一三年一月、「玉轉」の玉は一二個であった/明治一三年、初の玉転がしの戯れ唄「カタン轉/\の感」/明治一三年の営業税雑種税

第5章 明治一五年五月、玉ころがし営業に警察の鑑札
玉ころがしの鑑札/「二等球戯場」のパチンコ遊技場/明治一五年九月、玉轉し博奕で六三人逮捕/明治一七年、『明治事物起原』の「玉突十店」/明治一九年、『歐米 玉突指南』の玉ころがし/明治二〇年五月、南傳馬町の玉轉がしの店/明治二〇年六月、玉轉がしの玉を投げ、捕まる/明治二〇年七月、いかさま玉轉し臺/明治二二年六月、岡崎町の玉轉がし/明治二四年頃、川北徳三郎の玉ころがしの見張り番

第6章 尾崎紅葉『紫』の玉転がし
明治二二年九月、百余名の捕縛/明治二三年五月、大弓塲等の請願と玉轉営業差し止め/明治二五年一一月、雑誌『玉胡蘆雅誌』第一巻発刊/明治二六年三月、電氣表(票)決器の玉ころがしの音/明治二七年、尾崎紅葉『紫』の玉転がし景品/明治二七年頃、小出楢重『めでたき風景』の球ころがし/明治二九年五月、「令孃氣質(玉ころがし)」

第7章 明治二九年、櫛引弓人が玉ころがしをアメリカへ
明治二九年、玉ころがしアトランティックシティ初登場!/『米国日系人百年史』/活動写真と新居三郎/櫛引弓人の生涯/竹越與三郎『倦鳥求林集』/櫛引弓人の死去報道

第8章 明治三四年、片山潜『渡米案内』
明治三〇年一一月、「淺草區の顔役と其収入」/明治三一年七月、神奈川県令の「玉投」「玉転」/明治三一年一二月の玉突き競技会/明治三二年の玉突き場/『宇都宮繁盛記』の玉転し/片山潜『渡米案内』

第9章 米国の玉ころがし、台湾の玉ころがし、朝鮮の玉突き
明治三四年、パンアメリカン博覧会の玉ころがし/櫛引がバッファローで路面電車に轢かれる/新居三郎の友情/明治三五年、マディソン・スクエア・ガーデンの玉ころがし/明治三六年、アトランティックシティの玉ころがし取締り/台湾の玉ころがし、朝鮮の玉突き/明治三七年、コニーアイランドの玉ころがし場写真/澤田ミチコ『東京ライフ、ニューヨークの夢』/明治三七年、チャリティの玉ころがし

第10章 明治三七年、セントルイス万博の玉ころがし
明治三七年四月三〇日、セントルイス万博開会/秋田江畔の「聖博雜記(一)」/星新一『明治・父・アメリカ』/秋田江畔の「聖博雜記(二)」/秋田江畔の「聖博雜記(三)」の玉ころがし

第11章 永井荷風と田村松魚の玉ころがし
明治三八年、バガテールに似た「ボール・ゲーム」記事/明治三八年、ホームストアの広告に登場する「ピンポン・ゲーム」/明治三九年のミルズ社の玉ころがし場/明治四〇年、ジャパニーズ・ピンポン・パーラー/永井荷風「暁」の玉転し/明治四一年、『風俗画報』のコニーアイランド/明治四二年、田村松魚の「ジャパニース、ボーリング、ゲーム」/田村松魚「靑年の稼ぎ振」/『あめりか物語』と『北米の花』と『歐米漫遊雑記』/元祖メリケンジャップ、田村松魚/瀬戸内晴美『田村俊子』

第12章 明治四〇年、前田河広一郎の玉ころがし
前田河広一郎「騒音地獄」/『青春の自画像』の玉ころがし/『コリントゲームと人生劇場』

第13章 明治四〇年、「スキー・ボール」発明さる!
ジャパニーズ・ピンポンと、ボーリング・ゲームとローリング・ボール/フィッシャーマンズ・ワーフ・ピア39のスキー・ボール/明治四〇年、最初のスキー・ボール特許/『景品につられて─美しいゲーム、スキー・ボールの実話』/明治四二年、現在のスキー・ボールの原型発売/明治四二年六月、「世界見物」、日本の玉轉がし/アラスカ・ユーコン・太平洋博覧会の玉ころがし/明治四三年、帝国ホテルで英人テーラーの玉突会/明治四五年六月二日『毎日申報』の日勝亭広告/明治四五年、岡雷平「南洋の玉轉がし」/大正三年出願実用新案「戰勝記念娯樂器」/ギブソンが明かす、いかさまドロップケース「玉落とし」/名古屋地方裁判所検事局検事が記した「玉ころがし」/大正二年、佐野實の「南洋の玉轉し」

第14章 日米の玉ころがし特許と大正五年のスキー・ボール改良特許
大正元年頃、坪内士行「なすな恋」の玉ころがし/盆形の板とキュー/大正二年のフィラデルフィアの「TAMAYA」/大正四年の玉ころがし改良の実用新案「球戲盤」/大正五年のスキー・ボール改良特許/大正六年、アメリカでの玉ころがし特許出願/大正八年、玉ころがし他、チャンスゲーム禁止

第15章 大正一〇年、中山岩太夫妻、ライビーチで玉ころがし
大正七年、ワイルドウッドの「スキー・ボール」と「玉ころがし」広告/中山岩太夫妻の一時間写真、糸引き、玉ころがし/広津和郎、「自動楽器」を聞く/大正一〇年、広津和郎、射的屋の隣の「球ころがし」で遊ぶ/大正一一~一五年、林芙美子『放浪記』の玉転がし/辻潤、辻まこと、林芙美子が見たパリの玉ころがし/大正一一年、ダダイスム?の玉ころがし新聞記事

第16章 大正一〇年、めりけんじゃっぷ、長谷川海太郎の玉ころがし
横尾忠則装幀の『一人三人全集』/カポネと海太郎/玉ころがしの景品と、玉台の溝、仕掛け/さくらといかさま/ロンドンの玉ころがし/フランスのビヤール・ジャポネのポストカード入手/ジャパニーズ・ローリング・ボールからビヤール・ジャポネへ

第17章 排日移民法下の玉ころがしとスキー・ボール
禁酒法と排日移民法/ギブソンの「ジャパノーラ」記事/ギブソンの「オートマティック・ボウリング・アレイ」記事/排日移民法下の『日米時報』の「費府大博覧會日本村」広告/櫛引博覧会王伝説/排日移民法成立までの経緯/玉ころがし景品と、景品クーポン券/昭和四年、「スキー・ボール」名称商標登録/玉ころがし、スキー・ボール、スキル・ボールの同時広告

第18章 「淺草紅團」の射的、玉ころがし、パチンコ
東京には戦前、パチンコの菓子販売機しかなかった/川端康成「淺草紅團」の射的と玉ころがし/昭和五年、「風鈴キングのアメリカ話」/座敷鉄砲の始め/昭和五年、「東京盛り場風景」の射的と玉ころがし

第19章 松屋スポーツランドのスキイ・ボオリング
昭和六年一月、「玉ころがし」遂に滅ぼさる/昭和七年二月、コニーアイランドの玉ころがし店、延焼/昭和七年三月、パチンコの最初の禁止/昭和七年、川端康成「淺草の九官鳥」のスキイ・ボオリング/サンタモニカ・ピアの遊技場と映画『スティング』

第20章 真珠湾攻撃、玉ころがし消える
昭和八年、玉ころがし賭博、大検挙/昭和一三年、『愛媛県史』に「玉転」あり/全米日系人博物館/昭和一五年、「七・七禁令」から半年後の「慰安・娯楽」/スマートボールの通史がない理由/昭和一六年、映画『市民ケーン』の玉ころがし景品/昭和一七年の「企業整備令」と川崎長太郎の「球ころがし場」/昭和一九年、アメリカの玉ころがしの揶揄記事

第21章 戦後のパチンコと玉ころがし
昭和二一年一月の「日鮮華人二百余が亂闘」/昭和二一年一月の「街頭賭博に母は泣く」/昭和二三年八月の「玉ころがし取締り」/昭和二六年二月の「〝玉ころがし〟取締り」/昭和二六年九月、『神奈川新聞』の各種遊戯の禁止記事/昭和二六年一一月の「玉轉しの許可を停止」/昭和二六年一二月の「「玉轉がし」檢挙」/昭和二七年七月の「朝鮮人三〇名が暴行」

終 章 昭和三三年、最後の玉ころがし
裁判記録から「玉ころがしトバク」の実態/景品交換をめぐって/吉行淳之介の球ころがし

あとがき
参考文献
人名索引

関連書籍

『パチンコ』
杉山 一夫:著