叢書・ウニベルシタス 969
自律の創成
近代道徳哲学史

四六判 / 1028ページ / 上製 / 価格 14,300円 (消費税 1,300円) 
ISBN978-4-588-00969-3 C1310 [2011年11月 刊行]

内容紹介

カントに至る近代道徳哲学の流れはどのようなものであったか。本書は、主意主義、主知主義、合理主義から理神論や懐疑論、無神論までの多様なスペクトルからなるモンテスキュー以後の道徳思想の流れを詳細に後づけ、カントによる「自律」としての道徳観の創成を解明すべく近代の道徳思想史を網羅的に分析し、考察した記念碑的著作。

著訳者プロフィール

ジェローム・B. シュナイウィンド(シュナイウィンド ジェローム)

(Jerome B. Schneewind)
1930年生まれ。プリンストン大学にて博士号取得。その後、シカゴ大学哲学部をはじめ、哲学の専門家として、イエール、プリンストン、ピッツバーグ大などを経て、ジョンズ・ホプキンス大学教授。現在は同大学名誉教授、アメリカ学士院会員。現代のアメリカを代表する哲学史、思想史研究のリーダーのひとり。主な著書として、本書のほかに、Backgrounds of English Victorian Literature(New York: Random House, 1970), Sidgwicks thics and Victorian Moral Philosophy(Oxford: Clarendon Press, 1977)、そのほか編著も多数ある。

田中 秀夫(タナカ ヒデオ)

現在、京都大学大学院経済学研究科教授。
専攻:社会思想史・経済思想史・経済哲学。
主要業績:著書『アメリカ革命の群像』(名古屋大学出版会、2011年)、『社会の学問の革新』(ナカニシヤ出版、2002年)、『啓蒙と改革』(名古屋大学出版会、1999年)、『スコットランド啓蒙思想史研究』(名古屋大学出版会、1991年)。編著『啓蒙のエピステーメーと経済学の生誕』(京都大学学術出版会、2008年)。単独訳、ヒューム『政治論集』(京都大学学術出版会、2010年)、A. O. ハーシュマン『方法としての自己破壊』(法政大学出版局、2004年)、共訳、ハチスン『道徳哲学序説』(京都大学出版会、2009年)、J. G. A. ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント』(名古屋大学出版会、2008年)、その他。

逸見 修二(ヘンミ シュウジ)

京都大学大学院経済学研究科単位取得後、光華大学講師などを経て、現在、公認会計士。
専攻:社会思想史・経済思想史。
主要業績:「フランソワ・ギゾーとフランス自由主義」(京都大学修士論文、2000年)。論文「ルソーと共和主義」田中秀夫・山脇直司編『共和主義の思想空間』(名古屋大学出版会、2006年、所収)。共訳、イシュトファン・ホント『貿易の嫉妬』(昭和堂、2009年)、ライオネル・ロビンズ『一経済学者者の自伝』(ミネルヴァ書房、2009年)、その他。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

 日本語版への序文
 序文
 謝辞

 序論
第1章 近代道徳哲学史のさまざまな主題
1 道徳哲学と社会変化
2 道徳と自己統治
3 道徳と宗教
4 道徳、認識論、道徳心理学
5 本書の見取図

 第一部 近代自然法の興亡
第2章 自然法──主知主義から主意主義へ
1 自然法理論の諸起源
2 聖トマスの自然法道徳
3 主意主義における意志と善
4 ルターの二王国
5 ルターの主意主義
6 カルヴァンの人文主義的主意主義

第3章 宗教を無視する──共和主義と懐疑論
1 ヴィルトゥと巧妙な君主
2 自己統治する共和国
3 ピュロン主義の再発見
4 モンテーニュ──懐疑論と信仰
5 モンテーニュの基準
6 モンテーニュ風の倫理?
7 シャロン──折衷的懐疑論
8 戦争と道徳

第4章 自然法の再表明──スアレスとグロティウス
1 スアレス──法における意志と知性
2 スアレス──法とその公布
3 スアレス──服従の動機
4 グロティウスと宗教信仰
5 グロティウスの問題設定
6 「たとえわれわれが認めるべきだとしても……」
7 徳の不十分性
8 権利と共同体

第5章 グロティウス主義の極限──ホッブズ
1 欲求と紛争
2 心理学から道徳へ
3 実践における道徳
4 ホッブズの主意主義

第6章 愛の道徳──カンバーランド
1 法としての愛
2 愛の法の位置づけ
3 自己愛から仁愛へ
4 神、法、義務
5 道徳における合理性
6 無知と服従

第7章 重要な総合──プーフェンドルフ
1 道徳的実体
2 道徳上の善と自然の善
3 自然法についての知識
4 完全な義務と不完全な義務
5 法と責務
6 プーフェンドルフの主意主義の意義

第8章 近代自然法の崩壊──ロックとトマジウス
1 ロックとグロティウス的問題設定
2 道徳学の要素
3 科学としての道徳
4 ロックの主意主義
5 道徳における啓示と理性
6 自然法に関するロックの初期の著作
7 正義と愛
8 主意主義と経験主義的道徳
9 トマジウス──主意主義の拒否
10 義務と助言
11 法と道徳の分離

 第二部 完全論と合理性
第9章 近代完全論の諸起源
1 キリスト教化されたストア哲学──デュ・ヴェールとリプシウス
2 チャーベリーのハーバート──宇宙と共通観念
3 ハーバート──共通観念、道徳、宗教
4 デカルトの主意主義
5 デカルト──無知と徳
6 デカルト──幸福、情念、愛

第10章 神への道──Ⅰ ケンブリッジ・プラトニスト
1 ウィチカット──宗教の核としての道徳
2 ジョン・スミス──完全性、愛と法
3 モア──愛の公理
4 カドワース──倫理の形而上学
5 ケンブリッジ・プラトニズムと自由意志

第11章 神への道──Ⅱ スピノザとマールブランシュ
1 スピノザ──目的なき世界における倫理
2 英知と善き人生
3 スピノザの社会
4 マールブランシュ──悪と神の一般意志
5 秩序、徳、幸福
6 功徳を得ること
7 マールブランシュの道徳

第12章 ライプニッツ──反革命的な完全論
1 最善の可能世界
2 自由と理性による決定
3 愛、正義、完全性
4 プーフェンドルフへの異議──法と意志
5 プーフェンドルフへの異議──正当化と動機

 第三部 自立した世界に向かって
第13章 救済なき道徳
1 ガッサンディによるエピクロス主義の復権
2 自由意志と神の理解不能性
3 道徳と隠れた神
4 ニコル──利己心の巧妙
5 ベール──宗教と有徳な無神論者

第14章 徳の復興
1 徳と法
2 ユートピアにおける徳
3 ハリントンの空虚な市民
4 シャーフツベリの政治学
5 情念の多様性
6 道徳感情、主意主義、懐疑論
7 徳、幸福、完全な市民

第15章 道徳の厳格さ──クラークとマンデヴィル
1 自由意志と行為の理由
2 数学的道徳
3 道徳と理性的行為者
4 最善の可能世界における道徳
5 キリスト教の必要性と道徳
6 マンデヴィル──自然化された道徳
7 本性〔自然〕に反する道徳

第16章 愛の限界──ハチスンとバトラー
1 カーマイケル──スコットランドのプーフェンドルフ
2 ハチスンによる仁愛の道徳
3 道徳と感情
4 理性、動機、打算
5 バトラー──人間本性の複雑さ
6 良 心
7 自己愛、仁愛、道徳
8 神と道徳

第17章 ヒューム──自然化された徳
1 感情の学としての道徳哲学
2 欲求、信念、行為
3 是認の法則
4 人為的な徳と自然な徳
5 義 務
6 ヒュームと古典的共和国
7 道徳と宗教

第18章 父なき世界に抗して
1 感情論、懐疑論、新合理論
2 プライスの直観論
3 直観と動機
4 道徳と摂理の配慮
5 アダム・スミス──感情論の再表明
6 力を失った道徳哲学
7 リード──能動的力能
8 明白なものを擁護する──直観的公準
9 自由と道徳
10 リードの遺産

第19章 自己愛の気高い効果
1 観念連合と功利
2 神と最大幸福
3 利己主義と改革──エルヴェシウスとドルバック
4 ベンサム──自主した世界における道徳の作成
5 サド──腐敗した社会における自己愛

 第四部 自律と神の秩序
第20章 完全性と意志──ヴォルフとクルジウス
1 ヴォルフ──体系の必要性
2 ヴォルフの心理学
3 ヴォルフの倫理学
4 敬虔主義に関する注解
5 クルジウス──自由意志の重要性
6 自由と徳
7 道徳と神の意志

第21章 宗教、道徳、改革
1 ヴォルテールと主意主義
2 ラ・メトリ──無神論を解き放つ
3 ディドロ──理論なき道徳
4 ルソー──道徳の起源
5 人間本性の変化
6 古典的共和国に向かって
7 仲裁なき摂理

第22章 自律の創成
1 道徳法に向かって
2 ルソーの影響について
3 神義論と道徳
4 神義論と自由
5 理性と感情
6 道徳と二つの世界

第23章 道徳哲学史におけるカント
1 神との平等
2 自己統治から自律へ
3 意志と欲求
4 自然法、義務、道徳的必然
5 倫理学の諸方法
6 徳、愛、完全性

 エピローグ
第24章 ピュタゴラス、ソクラテス、カント──道徳哲学史を理解する
1 ソクラテス説
2 ピュタゴラス説
3 啓示と理性
4 カントとピュタゴラス説
5 道徳哲学の目的は単一か
6 道徳哲学における連続と変化
7 道徳哲学の進歩

 原注
 訳者解説 カントへの道の多様性──シュナイウィンドの方法について
 監訳者のあとがき
 参考文献
 事項索引
 書名索引
 人名索引

関連書籍

浜田義文編『カント読本』、ロックモア『カントの航跡のなかで』(牧野英二監訳)、いずれも小局刊