叢書・ウニベルシタス 1098
オーストリア文学の社会史
かつての大国の文化

第56回 日本翻訳文化賞受賞
四六判 / 700ページ / 上製 / 価格 7,700円 (消費税 700円) 
ISBN978-4-588-01098-9 C1398 [2019年08月 刊行]

内容紹介

近現代ドイツ国家の政治的ヘゲモニーのもと、従来「ドイツ文学史」の一部に包摂されてきたオーストリア地域の文学。旧ハプスブルク帝国の文化的・精神的伝統を色濃く引き継ぎ、19世紀以降は諸芸術の爛熟や精神分析の誕生、そして反ユダヤ主義の氾濫を目撃したウィーンを中心とするこの地の文学的遺産を、該博な知識と最新の視点で概観した初の通史。定評ある原書第三版に基づく全訳。

著訳者プロフィール

ヴィンフリート・クリークレーダー(クリークレーダー ヴィンフリート)

(Wynfrid Kriegleder)
1958年生まれのオーストリアのドイツ文学者・文学史家。ウィーン大学を卒業後,1997年以来同大学独文科教授を務め,これまでにローマ大学・アントワープ大学・ベルン大学・カンザス大学等で客員教授を務めている。専門は18,19世紀オーストリア小説およびオーストリア文学史記述。オーストリア啓蒙主義風刺詩人・作家ヨーゼフ・フランツ・ラチュキー,特にチャールズ・シールズフィールド(カール・ポストル)研究の第一人者として知られ,同全集の編者の一人でもある。著書・共著は20冊を超えるが,本書『オーストリア文学の社会史』(原題Eine kurze Geschichte der Literatur in Österreich)はその主著であり,師ヘルベルト・ツェーマンの「オーストリア文学史」の構想を受け継ぎ,その集大成として近代的・学術的オーストリア文学史の記念碑的著作との評価を得,改訂・増補3版(2019年現在)をかぞえている。

斎藤 成夫(サイトウ シゲオ)

1965年生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。ドイツ文学専攻。盛岡大学文学部教授。著書に『エディプスとドイツ近代小説』,『世紀転換期ドイツの文化と思想──ニーチェ,フロイト,マーラー,トーマス・マンの時代』,『楽都の薫り──ウィーンの音楽会から』,共著に『価値崩壊と文学──ヘルマン・ブロッホ論集』,訳書にJ.ヘルマント『ドイツ近代文学理論史』(以上,同学社),K. P.リースマン『反教養の理論』(共訳/法政大学出版局)ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

日本語版への序

緒 言

第一章 中 世

第一節 中世初期/盛期──バーベンベルク時代
「オーストリア」 / ラテン語文献 / ドイツ語文学 / ドナウ・ミンネザング──ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデなど / 英雄叙事詩──『ニーベルンゲンの歌』など / 短篇叙事詩 / 宮廷叙事詩 / ヘブライ語文献

第二節 中世後期──初期ハプスブルク時代(一二八二──一三五八)
ラテン語文献 / ドイツ語宗教文献 / 世界年代記
第三節 中世後期──ルードルフ四世からアルブレヒト五世の時代 (一三五八─一四三九)
ラテン語文学 / 宗教書翻訳 / 宗教劇 / ドイツ語年代記 / 格言詩 / 抒情詩 / ヘブライ語文献

第二章 近世初期

第一節 人文主義と宗教改革(一四四〇─一六一八)
「太陽の沈むことなき帝国」 / 宗教改革とその余波 / 言論・教育状況 / 人文主義 / ウィーン人文主義 / 反宗教改革的言説 / ドイツ語詩 / ドイツ語演劇 / 人文主義演劇 / 学校劇 / イエズス会劇 / 散文作品

第二節 バロックの時代(一六一八─一七四〇)
三十年戦争 / バロック期の社会・政治状況 / バロック文学 / 新ラテン語抒情詩 / ドイツ語詩 / 説教文学 / ドイツ語散文 / 散文作品 / ドイツ語小説 / イエズス会劇 / ベネディクト会劇 / イタリア・オペラと旅まわりの一座

第三章 オーストリアにおける啓蒙と三月前

第一節 啓蒙絶対主義の時代(一七四〇─九二)
マリア・テレジアとオーストリアの啓蒙 / ヨーゼフ主義 / 出版状況 / フリーメーソンと文学サロン / 教会批判 / 長篇小説 / 高踏様式詩 / ロココ抒情詩 / 叙事詩 / 喜劇的叙事詩 / ウィーン喜劇 / 劇場状況 / モーツァルトの周辺 / 修道院における文学活動 / 地方都市での啓蒙

第二節 ナポレオン戦争の時代(一七九二─一八一五)
反ロマン主義 / ロマン派とその周辺 / 韻文 / 小説──カロリーネ・ピヒラーなど / 劇場

第三節 メッテルニヒ時代──オーストリアにおける三月前(一八一五─一八四八)
メッテルニヒ時代 / 三月革命 / 雑誌 / 出版状況 / 抒情詩──シューベルトの周辺 / アナスタージウス・グリューン / ニコラウス・レーナウ / 叙事詩 / 方言文学 / 評論その他 / 散文作品 / アーダルベルト・シュティフター / 演劇 / グリルパルツァー / ウィーンの城外劇場 / フェルディナント・ライムント / ヨハン・ネストロイ

第四章 カカーニエン(一八四八─一九一八)

第一節 新絶対主義と自由主義の時代(一八四八─一八八五)
皇帝フランツ・ヨーゼフ / オーストリア=ハンガリー二重君主国 / 国民文学 / 思想的・社会的背景 / 抒情詩 / 韻文叙事詩 / フユトン / フユトン小説 / ガリツィア小説 / 写実主義長篇小説 / ウィーン城外劇場 / オペレッタ / ウィーンの劇場活動 / 地方文学

第二節 世紀転換期と君主国の終焉(一八八五─一九一八)
政治情勢 / 世紀末と思想家たち / 女性運動 / 分離派と新たな芸術運動・カフェー / 劇場・出版状況 / 批評家たち──カール・クラウス、ヘルマン・バール / 若いウィーン──ウィーン・モダン / フーゴ・フォン・ホフマンスタール / アルトゥル・シュニッツラー / 後期写実主義物語文学 / 社会批判演劇 / 郷土芸術運動 / プラハの文壇 / キリスト教文学 / 表現主義 / ゲオルク・トラークル / 幻想小説 / オペレッタ

第五章 第一共和国と第三帝国(一九一八─四五)

第一節 第一共和国(一九一八─三八)
第一次世界大戦後 / 「合邦」後の文学界 / 教育・言論界 / 劇場・大衆メディア / 表現主義演劇 / エデン・フォン・ホルヴァート / 抒情詩 / ヨーゼフ・ヴァインヘーバー / カトリック文学 / 歴史小説 / 同時代史小説 / 幻想文学 / ウィーン小説 / 社会小説と女性作家たち / シュテファン・ツヴァイク / フランツ・ヴェルフェル / ヨーゼフ・ロート / エリアス・カネッティとヘルマン・ブロッホ / ローベルト・ムージル

第二節 第三帝国(一九三八─四五)
合邦下の文化状況 / 抵抗文学

第六章 第二共和国

第一節 戦 後(一九四五─六六)
戦後の政治情勢 / 戦後のドイツ文学研究と教育・文化政策 / 出版状況 / 作家団体 / 文芸雑誌の興隆 / 放送メディア / 映画 / 劇場状況 / 「ウィーン・グループ」 / 抒情詩 / インゲボルク・バッハマン / パウル・ツェラーン / ウィーン・グループ周辺の詩人たち / 散文作品──イルゼ・アイヒンガー / ハイミート・フォン・ドーデラー / その他の小説家たち / 戦後世代の小説家たち / 地方の文学活動

第二節 社会自由主義路線(一九六六─八九)
社会自由主義路線時代の社会・政治状況 / 文学界の動向 / 出版状況と文学センター / 文学賞とテレビ / 演劇の新たな動向とペーター・ハントケ / その他の劇作家たち / エルフリーデ・イェリネクの演劇作品 / トーマス・ベルンハルトの演劇作品 / 抒情詩 / 実験作家たち / 主体的文学 / 政治詩 / エッセー文学 / 散文文学とペーター・ハントケ / その他の小説家たち / エルフリーデ・イェリネクの散文作品 / トーマス・ベルンハルトの散文作品 / その他の散文文学

第三節 新たなヨーロッパの中で─一九八九─二〇一八
EU加盟と政治情勢 / 文学界の動向 / エッセー文学と社会批判 / 児童文学 / 抒情詩 / 演劇作品 / 散文作品 / 推理小説 / ダニエル・ケールマンと若い世代の作家たち / 多言語作家たち

訳者あとがき

文献一覧
人名索引

書評掲載

「図書新聞」(2019年11月2日号/前田佳一氏・評)に紹介されました。

関連書籍

『反教養の理論』
コンラート・パウル・リースマン:著