叢書・ウニベルシタス 700
マリア 〈新装版〉
処女・母親・女主人

四六判 / 678ページ / 上製 / 価格 7,480円 (消費税 680円) 
ISBN978-4-588-09949-6 C1323 [2011年11月 刊行]

内容紹介

ヨーロッパ史においてキリスト教内の隠れた女神と言われるまでに発展し、日常生活・社会生活と密接に結びつき、芸術・文学をはじめ西欧文化全般に多大な影響を与えてきたナザレの女性マリアの全体像を、豊富な資料・図版を駆使して余すところなく綴った文化人類学的考察。中世の人びとが生きて希望をもつために抱き続けてきたマリア像を鮮明に描き上げる。

著訳者プロフィール

K.シュライナー(シュライナー クラウス)

(Klaus Schreiner)
1931年生まれ。テュービンゲン大学歴史地誌研究所長を経てビーレフェルト大学教授、中世史および南西ドイツ地方史の講座を担当。マリア論と中世精神史に関する数多くの学術論文を歴史書、事典などに寄稿している。

内藤 道雄(ナイトウ ミチオ)

1934年生まれ。現在、京都大学名誉教授。専攻:ドイツ文学、美学。著訳書:『詩的自我のドイツ的系譜』(同学社)、『聖母マリアの系譜』(八坂書房)、『言語と形象』(共著、世界思想社)。シャルガフ『証人』『不可解な秘密』『過去からの警告』(共訳、法政大学出版局)、イェーナー『ドイツ表現派ブリュッケ』(共訳、岩波書店)ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

 序

第1章 幼少期、青春時代、母親時代
母親アンナ
中世後期の都市住民の象徴的形姿アンナ
神の使者ガブリエル
どの日、どの時刻に天使は来たのか?
耳からの受胎
不つりあいなカップル
妊婦マリア
ヨセフの疑念
命の樹の育ったマリアの身体
霊的な身ごもり
妊婦たちの守護聖女
妊娠した尼僧院長に対する助け
イエスの誕生
産褥のマリア
見解の変化

第2章 悦び、羞恥、同苦、心痛
マリアの悦び
マリアも笑っただろうか?
処女マリアも恥ずかしがったか?
悲しみ多い母
シメオンの剣
マリアは「遠くから磔刑を見まもっていた多くの女性たち」のなかにいたか?
十字架の下のマリア
抑えられた心痛

第3章 知的な女性マリア
天使の訪問時、マリアは何をしていたか?
マリアが教育を受けた神殿と親元
使徒たちの女教師
イエス就学時のマリア
中世の女性教養の象徴的形姿
マリアには書字能力があったのか?
マリアとリベラルアーツ
大学の守護聖女
女司祭マリアに対する異議と抗議

第4章 命の書
命の書イエス
創造の書を読む
他にも読めるいくつかの書物
書物としてのマリア
マリアとパピルスの巻物あるいは手写本との共通性
神の尚書としてのマリア
マリアの生涯という貴重な手稿
バンベルクの写本
書かれたテクスト、マリア

第5章 あなたの乳房は葡萄の房より甘い
教会の乳房 母親としてのイエス
マリアの乳房
奇跡的な恩恵をほどこすマリアの乳
神学的な知と神的英知の源としてのマリアの授乳
授乳する神の母
イエスに授乳するマリアの神学的論拠と神秘的メタファー
聖遺物としてのマリアの乳
宗教改革による批判

第6章 黒いマドンナ
モンセラートの褐色のマリア
ポーランドの国民の守護女性
ブリュンの黒いルカ画像
アルトエッティングの聖母像
黒マリアがなぜこれほど多いのか?
伝説的な根源
日常の経験生活世界における黒い肌の色
美的文学的暗喩としての黒
「色は黒くてもわたしは美しい」
黒い教会、黒い魂、黒いキリスト
黒いマリア

第7章 聖画像の効力と無力
聖画像敵視と聖画像禁止
絵画は読み書きできない者たちの書物
聖画像は一義的ではなく、読むのはむずかしい
中世後期の画像神学
画家ルカ
ペストの時代の救済者
防御兵器となったマリアの画像
私的な信心実践とマリア像
実用的な形
死にゆく者たちを助けるマリア画像
期待の重荷を負わされたマリア
奇跡を起こすマリア像
教会内部の聖画像批判
マリアは「淫らに」描出された女性?
教皇制度を利するよう操作されるマリア像
改革派キリスト教徒の避難所となったアインズィーデルンのわれらが女性
聖画像破壊者たち
聖画像冒瀆、聖画像損傷
顰蹙を買ったマリア像

第8章 主の女奴隷から貴族女性、さらには天の女王に
マリアは系図のないダビデの後裔?
中世初期の貴族社会の模範像
生得にしてかつ獲得されたマリアの貴族性
はした女か貴族女性か?
馬上試合の助力者マリア
ハイスターバッハのカエサリウスの概念
騎士社会の守護聖女

第9章 市民の守護聖人
親近性
神の母の都コンスタンティノープル
処女マリアの町シエナ
ストラスブールの守護聖女
町々に雨を降らせ、ペストから市民を守るマリア
絵画と祝祭

第10章 無敵のマリア
マリアの戦闘支援
マリアの名におけるアラブ、サラセンとの戦い
処女マリアのはした女ジャンヌ・ダルク
同盟者たちと連携するマリア
マリアと古いチューリヒ戦争中の画像
市民や農民への助け
「われら騎士団の最大の女性であり庇護者」
マリアの騎士
死にゆく戦士たちには慰め、敵には恐怖
神の母の世襲地
「神のすべての戦いにおける勝利者」
バイエルンの庇護女性
ミュンヘンのマリア
処女の「奴隷」選帝侯マキシミリアン
天上の処女の勝利
バイエルン戦旗のマリア

第11章 ユダヤ人の母
「あなたをめぐって少なからぬ争いがおきている」
マリアの姦通という反キリスト教的伝説
イザヤの予言は「処女」それとも「若い女」?
ユダヤの律法学者たちの異議
女からの神の誕生の不可能性について
キリスト教の神学者とユダヤ教の神学者のコミュニケーション
マリアの名における反ユダヤ的伝説の形成
ユダヤの男の児の事件
とりこわされ、マリア教会にかえられたシナゴーグ
はずかしめられ傷つけられたマリア画像
「マリア像の凌辱と汚辱」
寛容の擁護者、ヨハネス・ロイヒリン

第12章 死
マリアの帰天
埋葬を邪魔したユダヤ人たち
教会の祝祭となったマリアの「永眠」
作用
留保、批判、疑念
正しい死にざまを指示するマリアの死
「社会的な死」
死ぬことを助ける朗読
しるしと儀式
臨終者に授ける秘跡
マリアは特権的な死を死んだのか?

エピローグ 多大な歴史的影響力をもった象徴形姿
神話と神秘主義
近寄りがたい女神、それとも母性的女性?
弱い者たち、軽蔑されていた者たちのマドンナ

 訳者あとがき
 参考文献
 原註