ものと人間の文化史 144
熊(くま)

四六判 / 384ページ / 上製 / 価格 3,850円 (消費税 350円) 
ISBN978-4-588-21441-7 C0320 [2008年09月 刊行]

内容紹介

かつて熊は神であった。人の規範として見習うべき聖獣であり、大自然を象徴する生き物として里人に認知されてきた。本書は、狩人たちからの聞き書きをもとに、彼らの執行する儀礼を通して、母系、トーテム、熊の供犠を大陸との繋がりで考察し、人が熊に投影してきたものは何かを明らかにして、熊と人との精神史的関係を描く。熊を通して人間の生存可能性にも及ぶユニークな動物文化史・自然論。

目次

序章 敬われてきた熊
 一 人との遭遇
 二 熊に対する人の意織の変貌
 三 人の生存と崇められる熊

第一部 熊と人里
第一章 烏海山のシシオジ・金子長吉と熊
 一 金子長吉の民俗世界
 二 尊崇される熊
 三 熊の行動
 四 儀礼を保持し続けるもの
 五 交錯する伝承

第二章 朝日山麓の小田甚太郎熊狩記
 一 仔熊を飼う
 二 熊ジャ
 三 初めての狩り
 四 熊を知り尽くした狩人
 五 難儀した狩り
 六 熊とキノコ
 七 熊胆と皮と掌
 八 熊を知り敬う

第三章 大烏の亀井一郎と熊
 一 冬眠と目覚め
 二 朝日山麓大島の熊狩り

第四章 飯豊山麓藤巻の小椋徳一と熊

第五章 里と熊
 一 熊と領域
 二 桙
 三 放相氏と隈
 四 本草の熊
 五 熊胆の里
 六 内臓の行方

第六章 熊と食
 一 食の年間サイクル
 二 羆の食
 三 熊と人の食の交渉

第七章 熊の捕獲
 一 命のやりとり
 二 命を育む熊穴
 三 飛び道具

第八章 狩りの組織と村の変貌
 一 狩人と戦争
 二 熊祭りの村の社会組織
 三 複数の狩人組織がある村

第二部 熊と人間が取り結ぶ精神世界
第一章 熊・母系・山の神
 一 籠もりと復活・再生
 二 女性と禁忌
 三 熊と癒し

第二章 熊を敬う人々
 一 「族人を助ける」
 二 人の命を助けた熊の伝承とトーテム
 三 熊の報恩譚
 四 熊のトーテム

第三章 山中常在で去来しない山の神、大里様と熊
 一 姿なく山を交配する神
 二 十二大里山の神と熊
 三 里という慨念の形成
 四 山中常在で去来しない山の神の本態

第四章 闇の支配者
 一 熊とハエ(蠅)
 二 熊は隈に宿る
 三 隈に潜むもの
 四 北の母――客人(マレビト)・熊

第五章 熊の霊
 一 大翔る馬
 二 熊を絵馬で祀る心
 三 熊と山の神様
 四 熊の霊
 五 豊猟祈願と山の神
 六 熊霊の循環と再生

第六章 熊の頭骨
 一 熊祭りの頭骨
 二 熊の頭骨を飾る地域とその意味
 三 北陸から東北地方での熊の頭骨の扱い
 四 「カレワラ」と頭骨

第七章 熊の像
 一 魔除けの熊
 二 熊の像

第八章 熊祭りの性恪
 一 飯豊・朝日山麓の熊祭り
 二 農耕儀礼との関連
 三 狩人の儀礼と村人
 四 山の狩猟儀礼はどのようにして里の狩猟儀礼となったか
 五 熊祭りの供宴

第三部 文芸にみられる熊
第一章 文芸にみられる熊
 一 昔話の熊
 二 動物文学の熊
 三 宮澤賢治と熊
 四 叙事詩「カレワラ」と熊

終 章 熊神考
 一 日本人と贖い
 二 トーテム
 三 人の生存を担保する熊
 四 現代思潮と熊

 あとがき