私たちの食生活と消費文化に不可欠となったパーム油。しかし、グローバルな生産量の約6割を誇るインドネシアではいまなお、オランダ植民地時代のプランテーション経営や、開発独裁政治に淵源する土地紛争、違法な入植行為や環境破壊、先住民や移民労働者の人権をめぐるトラブルが後を絶たない。集団間の暴力や排除が生じるメカニズムを、長期にわたる現地調査から明らかにする人類学の成果。
中島 成久(ナカシマ ナリヒサ)
1949年鹿児島県屋久島生まれ、高校卒業まで屋久島に居住。1978年九州大学大学院教育学研究科博士課程(文化人類学専攻)中退。1978年九州大学教育学部附属比較教育文化研究施設助手。1982年法政大学第一教養部助教授、教授を経て、2000年国際文化学部教授。2020年大阪大学博士(国際公共政策)、法政大学名誉教授。退職後屋久島に帰郷。
主著:『ロロ・キドルの箱──ジャワの性・神話・政治』(風響社、1993年)、『森の開発と神々の闘争──改訂増補版 屋久島の環境民俗学』(明石書店、2010年)、『インドネシアの土地紛争──言挙げする農民たち』(創成社新書、2011年)、編著『グローバリゼーションのなかの文化人類学案内』(明石書店、2003年)、訳書:ベネディクト・アンダーソン『言葉と権力──インドネシアの政治文化探求』(日本エディタースクール出版部、1995年)、アン・ローラ・ストーラー『プランテーションの社会史──デリ、1870–1979』(法政大学出版局、2007年)。
序
用語・略語解説
序章 アブラヤシ農園開発と土地紛争
第1節 研究の目的──インドネシアの土地政策、共有地権、ヘゲモニー関係
第2節 研究の背景、方法
1 土地紛争から見えるインドネシアのポスト・コロニアリズム的状況
2 共有地権をめぐる理念と現実
第3節 土地紛争を誘発するアブラヤシ農園開発
1 アブラヤシ農園の面的拡大
2 土地の収奪
3 土地紛争の現状
第4節 本書の構成
第Ⅰ部 土地紛争の淵源
第1章 共有地権の歴史的展開
第1節 改革時代の共有地権
1 改革時代以前──共有地権の承認と否定
2 改革時代──共有地権の承認への動きとその限界
2–1 土地関連法改革の流れ
2–2 先住民族なのか、慣習法共同体なのか──用語をめぐる混乱
第2節 西スマトラ州における共有地利用と管理主体の変遷
1 カパロ・ヒラランの闘い
1–1 永借地権の設定から軍による支配まで
1–2 人々の闘いと共有地利用の混乱
1–3 カパロ・ヒラランの最近の動きについて
2 ミナンカバウ社会における共有地権の歴史的変遷
2–1 ミナンカバウにおける三つの共有地
2–2 共有地への永借地権の設定
2–3 オンビリン炭鉱での永借地権
2–4 ナガリ条例
2–5 一九七九年村落法(西スマトラ一九八三年施行)
3 改革時代、一九九九年地方自治法によるナガリの復活
第2章 大農園に有利な土地分配政策への転換
第1節 インドネシアにおけるアブラヤシ産業の発展
第2節 中核農園方式から提携政策への転換
1 PIR方式の変遷
1–1 PIR方式変遷の過程
1–2 寛大な土地配分から面倒な方式への転換
2 小農と大農園との力関係
3 国営農園の場合
第3節 増大する小農
1 ジャンビ州におけるアブラヤシ農園開発
2 ブンゴ県における小農の増加と紛争
2–1 フェイントレニー報告
2–2 小農の生産性の低さ
2–3 小農の階層化
3 ムランギン県の小農
第Ⅱ部 アブラヤシ農園開発をめぐる土地紛争の実態
第3章 狩猟採集民族オラン・リンバの土地権──巨大アブラヤシ企業への抵抗と生存戦略
第1節 アブラヤシ農園開発とインドネシアの先住民族の現状
1 パプア州の場合
2 二〇〇七年「先住民族の権利に関する国際連合宣言」とインドネシア
3 アマンの結成
第2節 オラン・リンバにとっての土地
1 オラン・リンバの現状
2 オラン・リンバのリーダーシップ
3 オラン・リンバにとっての移動
4 森の野生動物の利用
第3節 土地を奪われるオラン・リンバ
1 SAL社の操業とそれへの抵抗
2 ブキット・ドゥアブラス国立公園の成立
3 土地の返還を主張するオラン・リンバ
第4節 オラン・リンバの外的世界
1 宙に浮くオラン・リンバの法的地位
2 先住民族、マシャラカット・アダット──ワルシによる支援活動
3 アマンとの共闘をめざさないスコラ・リンバ(KMB)の活動
4 定住化を推進する政府
5 住民証問題
第5節 タリブ氏の生存戦略──ライフヒストリーの分析
1 誕生から結婚まで
2 トゥムングンとしての活躍
3 知識人としての認知
4 イスラームとSAL社の受容
第6節 論点の整理
1 オラン・リンバの先住民族権
2 タリブ氏の生存戦略の評価
3 オラン・リンバの直面する諸問題の解決に向けて
第4章 共有地権をめぐる闘い──西パサマン県の事例より
第1節 西パサマン県でのアブラヤシ農園の拡大
第2節 アブラヤシ農園開発と共有地権
1 共有地利用における同意の形成
2 キナリ郡での事例
第3節 PHPⅠ社をめぐる紛争、カパの事例より
1 紛争の発端、合意形成の困難さ
2 紛争の展開、深まる内部対立
3 主流派対PHPⅠ社
4 紛争の新段階
5 カパのマシャラカット・アダット
第4節 ゲルシンド・ミナン社の紛争
第5節 頻発する土地紛争
第6節 ナガリ・デサバル、共有地権のない村での土地紛争
第5章 アブラヤシ農園開発とニアス人違法入植者排斥事件
第1節 ニアス人移住者のマージナリティ
1 西スマトラのニアス人
2 アブラヤシ農園開発で急増するニアス人労働者
第2節 オフィール山山麓部のニアス人違法入植者
第3節 二〇〇九年西パサマン県知事選挙
第4節 政治的報復
第5節 「長期の占有に基づく土地権」
第6節 襲撃事件後のニアス人違法入植者
第6章 違法入植者に土地権はあるのか──クリンチ・スブラット国立公園の事例分析
第1節 開発で危機に瀕するクリンチ・スブラット国立公園
1 クリンチ・スブラット国立公園の成立
2 地方分権で悪化する状況
3 迫るアブラヤシ開発
第2節 スンガイ・トゥバルの違法入植
1 スンガイ・トゥバルの入植史
2 地元民との軋轢
3 SPI指導者の逮捕
第3節 解決策はあるのか?
第Ⅲ部 アブラヤシ農園をめぐるヘゲモニー関係
第7章 土地紛争と治安機構
第1節 農園内の治安機構
第2節 紛争のコスト
1 目に見えるコスト、見えないコスト
2 紛争の原因、経緯、影響
第3節 抵抗の諸相
1 抵抗の声域
2 SAD113の闘いにおける抵抗の諸相
3 カリマンタンにおける抵抗の諸相
第8章 アブラヤシ農園ニアス人労働者をめぐるヘゲモニー関係
第1節 インドネシアにおけるアブラヤシ農園労働者の実態
第2節 AAGの労働者管理
1 エイシャン・アグリ・グループについて
2 威嚇の体系
3 ジェンダー問題
4 待遇改善を求めるデモ
第3節 ヘゲモニー関係の連鎖
終章 土地紛争解決への提言
1 共有地権に関する提言
2 事業権の透明化に関する提言
3 用語の統一に関する提言
4 土地収用方法と補償についての提言
5 調停機関としてのRSPOに関する提言
あとがき
表・地図一覧
図版一覧
参考文献
索引
用語・略語解説
序章 アブラヤシ農園開発と土地紛争
第1節 研究の目的──インドネシアの土地政策、共有地権、ヘゲモニー関係
第2節 研究の背景、方法
1 土地紛争から見えるインドネシアのポスト・コロニアリズム的状況
2 共有地権をめぐる理念と現実
第3節 土地紛争を誘発するアブラヤシ農園開発
1 アブラヤシ農園の面的拡大
2 土地の収奪
3 土地紛争の現状
第4節 本書の構成
第Ⅰ部 土地紛争の淵源
第1章 共有地権の歴史的展開
第1節 改革時代の共有地権
1 改革時代以前──共有地権の承認と否定
2 改革時代──共有地権の承認への動きとその限界
2–1 土地関連法改革の流れ
2–2 先住民族なのか、慣習法共同体なのか──用語をめぐる混乱
第2節 西スマトラ州における共有地利用と管理主体の変遷
1 カパロ・ヒラランの闘い
1–1 永借地権の設定から軍による支配まで
1–2 人々の闘いと共有地利用の混乱
1–3 カパロ・ヒラランの最近の動きについて
2 ミナンカバウ社会における共有地権の歴史的変遷
2–1 ミナンカバウにおける三つの共有地
2–2 共有地への永借地権の設定
2–3 オンビリン炭鉱での永借地権
2–4 ナガリ条例
2–5 一九七九年村落法(西スマトラ一九八三年施行)
3 改革時代、一九九九年地方自治法によるナガリの復活
第2章 大農園に有利な土地分配政策への転換
第1節 インドネシアにおけるアブラヤシ産業の発展
第2節 中核農園方式から提携政策への転換
1 PIR方式の変遷
1–1 PIR方式変遷の過程
1–2 寛大な土地配分から面倒な方式への転換
2 小農と大農園との力関係
3 国営農園の場合
第3節 増大する小農
1 ジャンビ州におけるアブラヤシ農園開発
2 ブンゴ県における小農の増加と紛争
2–1 フェイントレニー報告
2–2 小農の生産性の低さ
2–3 小農の階層化
3 ムランギン県の小農
第Ⅱ部 アブラヤシ農園開発をめぐる土地紛争の実態
第3章 狩猟採集民族オラン・リンバの土地権──巨大アブラヤシ企業への抵抗と生存戦略
第1節 アブラヤシ農園開発とインドネシアの先住民族の現状
1 パプア州の場合
2 二〇〇七年「先住民族の権利に関する国際連合宣言」とインドネシア
3 アマンの結成
第2節 オラン・リンバにとっての土地
1 オラン・リンバの現状
2 オラン・リンバのリーダーシップ
3 オラン・リンバにとっての移動
4 森の野生動物の利用
第3節 土地を奪われるオラン・リンバ
1 SAL社の操業とそれへの抵抗
2 ブキット・ドゥアブラス国立公園の成立
3 土地の返還を主張するオラン・リンバ
第4節 オラン・リンバの外的世界
1 宙に浮くオラン・リンバの法的地位
2 先住民族、マシャラカット・アダット──ワルシによる支援活動
3 アマンとの共闘をめざさないスコラ・リンバ(KMB)の活動
4 定住化を推進する政府
5 住民証問題
第5節 タリブ氏の生存戦略──ライフヒストリーの分析
1 誕生から結婚まで
2 トゥムングンとしての活躍
3 知識人としての認知
4 イスラームとSAL社の受容
第6節 論点の整理
1 オラン・リンバの先住民族権
2 タリブ氏の生存戦略の評価
3 オラン・リンバの直面する諸問題の解決に向けて
第4章 共有地権をめぐる闘い──西パサマン県の事例より
第1節 西パサマン県でのアブラヤシ農園の拡大
第2節 アブラヤシ農園開発と共有地権
1 共有地利用における同意の形成
2 キナリ郡での事例
第3節 PHPⅠ社をめぐる紛争、カパの事例より
1 紛争の発端、合意形成の困難さ
2 紛争の展開、深まる内部対立
3 主流派対PHPⅠ社
4 紛争の新段階
5 カパのマシャラカット・アダット
第4節 ゲルシンド・ミナン社の紛争
第5節 頻発する土地紛争
第6節 ナガリ・デサバル、共有地権のない村での土地紛争
第5章 アブラヤシ農園開発とニアス人違法入植者排斥事件
第1節 ニアス人移住者のマージナリティ
1 西スマトラのニアス人
2 アブラヤシ農園開発で急増するニアス人労働者
第2節 オフィール山山麓部のニアス人違法入植者
第3節 二〇〇九年西パサマン県知事選挙
第4節 政治的報復
第5節 「長期の占有に基づく土地権」
第6節 襲撃事件後のニアス人違法入植者
第6章 違法入植者に土地権はあるのか──クリンチ・スブラット国立公園の事例分析
第1節 開発で危機に瀕するクリンチ・スブラット国立公園
1 クリンチ・スブラット国立公園の成立
2 地方分権で悪化する状況
3 迫るアブラヤシ開発
第2節 スンガイ・トゥバルの違法入植
1 スンガイ・トゥバルの入植史
2 地元民との軋轢
3 SPI指導者の逮捕
第3節 解決策はあるのか?
第Ⅲ部 アブラヤシ農園をめぐるヘゲモニー関係
第7章 土地紛争と治安機構
第1節 農園内の治安機構
第2節 紛争のコスト
1 目に見えるコスト、見えないコスト
2 紛争の原因、経緯、影響
第3節 抵抗の諸相
1 抵抗の声域
2 SAD113の闘いにおける抵抗の諸相
3 カリマンタンにおける抵抗の諸相
第8章 アブラヤシ農園ニアス人労働者をめぐるヘゲモニー関係
第1節 インドネシアにおけるアブラヤシ農園労働者の実態
第2節 AAGの労働者管理
1 エイシャン・アグリ・グループについて
2 威嚇の体系
3 ジェンダー問題
4 待遇改善を求めるデモ
第3節 ヘゲモニー関係の連鎖
終章 土地紛争解決への提言
1 共有地権に関する提言
2 事業権の透明化に関する提言
3 用語の統一に関する提言
4 土地収用方法と補償についての提言
5 調停機関としてのRSPOに関する提言
あとがき
表・地図一覧
図版一覧
参考文献
索引
書評掲載
「図書新聞」(2022年03月05日号/岡本正明氏・評)に紹介されました。
「東南アジア研究」(61巻2号、2024年1月31日発行/水野広祐氏・評)にて紹介されました。