ドイツ・ロマン派の作家フリードリヒ・シュレーゲルの〈断片・断章〉形式による書記行為の現場に実証的研究で迫り、彼の美学思考そのものが、断章を書くという具体的作業と不可分に結びついていたことを明示する。最新のメディア文化学の知見に基づくことで、シュレーゲルの断章執筆を当時最先端の知識人の実践としてヨーロッパ人文学史の中に位置づけ、従来のロマン派研究を刷新する野心作。
二藤 拓人(ニトウ タクト)
1990年埼玉生まれ。立教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(DC1,2016–19年)。現在,西南学院大学国際文化学部准教授。専攻はドイツ文学・メディア文化。主な業績に,“Wie ediert man die Athenäums-Fragmente? Eine Fallstudie zur graphischen Dimension der Edition und Interpretation”(論文,Jahrbuch für Internationale Germanistik,2022年),「1800年頃の文芸公共圏における断章の変遷──フリードリヒ・シュレーゲルを手掛かりにしたメディア文化史的考察」(論文,『ドイツ文学』160号,2020年)。
※上記内容は本書刊行時のものです。序 論
一 本書の目的と問題意識
二 これまでのシュレーゲル研究
先行研究の分析方法と本書の方法論的立場
日本におけるシュレーゲル研究
三 本書の構成
四 Fragment / Fragmenteの日本語表記について
第一部 断章形式の成立
第一章 断片を読む──一八世紀末における断片の諸相
導入 フラグメント研究史およびフラグメントの意味編成の分類
第一節 伝承に起因する断片──シュレーゲルによる古代ギリシア文学の受容
(一)即物的な語法──『ギリシア文学の諸流派について』
(二)即物性から観念性への転換──『ギリシア文学についての研究』
(三)古代断片の考証文化とそのメディア条件
第二節 制作に起因する断章──メディア革命期における文芸ジャンル
(一)「時代の最先端」としての断章
A 「断章文学の洪水」──未完成の作品を示唆する出版書籍
B 雑誌メディアにおける断章──アウグストの翻訳の掲載を手掛かりに
(二)書簡に同封される草稿──断章を通じたロマン派の交流
(三)「断片的なもの」の流行に対するシュレーゲルの反応
第三節 転換点としての一七九七年──断片の受容から断章の産出へ
第二章 断章を構想する──術語的な語法への先鋭化
導入 「本来的な断章」をめぐって
第一節 一八世紀の断片思想からの影響関係
(一)ハーマンとヘルダー
(二)レッシングとシャンフォール
第二節 「本来的な断章」の起源としての古代叙事詩
(一)「アテネーウム断章集」のルーツと「ディアスコイアーゼ」の営み
(二)古代ギリシアの英雄叙事詩に備わる「思慮深さ」
第三節 個々の断章の自律性とその物質的条件
(一)断章に対する〈緊密性〉の要求
(二)物質と観念の両面性──「個体性」と「絶対性」への関係づけ
(三)「閉じているという感覚」と断片の〈完結性〉──「断章集」第二〇六篇を手掛かりに
第四節 断章の複数性──断章形式の成立条件に向けて
補記 断章とアフォリズム──ジャンル規定上の類似点
第三章 断章を書く──文体・書法の成立過程
導入 読書革命の時代──〈活字中心の世代〉としてのシュレーゲル
第一節 多読を通じた研究手法──「単なる読書」から「研究」へ
(一)大衆化する「孤独な読書」とそこに隠れた伝統的な黙読文化
(二)シュレーゲルにおける「研究」の概念規定──「循環的」読書
第二節 書きながら読む技術
(一)専門的な読書の系譜──文献学的技法の規定
(二)黙読における抄録、蒐集の実践──文献学的技法との関連性
第三節 断章の書法の成立──文献学的技法の変奏として
(一)統一的な〈著述〉からの逸脱
(二)作業場の主題化──手稿段階における諸断章
第四節 近代精神科学の挫折モデル?──文筆家シュレーゲルの多面性
《間奏》 「文献学」と「哲学」の分析──断章形式の一要素として
第一節 新しいメディアにおけるプラトン哲学の継承と発展
(一)断章形式における対話性
(二)言語神秘主義思想との関連
第二節 メディア的基盤としての「文献学」
(一)「文字」と「精神」──音声的要素の脱中心化についての試論
(二)「文字による刺激」としての文献学
第二部 文化技術としての断章的書記
第四章 読みながら書く──手稿断章群の書記現場(1)
導入 詩的エクリチュールから文化技術論へ──第二部の課題と主要な操作概念
第一節 シュレーゲルの手稿断章群についての基本情報
(一)『哲学的修業時代』と『文学ノート』──手帳への書記行為
(二)『文献学のために』──研究状況と複写版刊行
(三)「手稿」と「原稿」の区別
第二節 断章的書記の分析──『文献学のために』を手掛かりに
(一)文献学的技法から断章的書記へ
(二)検証(1)
A ハリス『文献学の探究』の〈抄録〉と〈批判〉
B テクストを読むことから〈考えを読む〉ことへ
(三)検証(2)
A 〈注釈〉のための余白と疑問符の機能
B 断章の筆記法とロマン主義的思考法
第三節 〈二次的・受動的〉書記──専門的な読書の脱中心性
(一)「自己読書」する作者から編集者の立場へ
(二)シュレーゲルにおける「うまく書く技術」──イロニー理論との対比から
第五章 下線を引く──手稿断章群の書記現場(2)
導入 断章的書記における下線強調の二つの役割
第一節 下線の使用頻度および手稿断章群の編集上の問題についての注記
第二節 〈編集工程〉における下線強調とシュレーゲルの編集美学
(一)検証(1)──手稿段階での指示記号の行方
A 「断章集」第四〇四篇に至るまでの手稿断章について
B 『アテネーウム』誌のタイポグラフィをめぐって
(二)すべての断章の均等な強調──下線を引かせるための活字体裁
第三節 手稿断章群における〈思考過程〉を支える下線強調
(一)検証(2)──〈論題〉選出の機能
(二)「吟唱される詩のように書かれたもの」──断章的書記と下線強調
第四節 断章的書記を可能にさせる筆記法──ロマン主義的「生成」を書く技術
第六章 組み合わせる──手稿断章群の書記現場(3)
導入 筆記法としての定型句と省略記号──抽象化された概念操作
第一節 相互の〈関係性〉を示す定型句
(一)検証(1)──「aとbの関係はcとdの関係に等しい」
(二)「機知」との関連づけ──レッシング論を手掛かりに
第二節 シュレーゲルによる「結合術」の実践?
(一)アルス・コンビナトリアの伝統との関連づけ
(二)試論 ライプニッツ『結合術論』との対応関係
第三節 〈同時性〉を示す定型句
(一)検証(2)──「aであると同時にbである」
(二)「最高の機知」との関連づけ──連続と非連続の同時性の記述
補記 開始地点に対する定型句──「~によって始まる」
第四節 術語に対する省略記号と図形による語の配置
(一)検証(3)──筆記と思考の効率化
(二)検証(4)──図形によるイメージの素描
第五節 「諸断章からなる客観的なシステム」の構想──非感情的なロマン主義?
結 論 断片・断章のメディア文化学
一 本書の振り返りと展望
二 これからの文化研究に向けて
あとがき
図版出典
参考文献
人名索引
一 本書の目的と問題意識
二 これまでのシュレーゲル研究
先行研究の分析方法と本書の方法論的立場
日本におけるシュレーゲル研究
三 本書の構成
四 Fragment / Fragmenteの日本語表記について
第一部 断章形式の成立
第一章 断片を読む──一八世紀末における断片の諸相
導入 フラグメント研究史およびフラグメントの意味編成の分類
第一節 伝承に起因する断片──シュレーゲルによる古代ギリシア文学の受容
(一)即物的な語法──『ギリシア文学の諸流派について』
(二)即物性から観念性への転換──『ギリシア文学についての研究』
(三)古代断片の考証文化とそのメディア条件
第二節 制作に起因する断章──メディア革命期における文芸ジャンル
(一)「時代の最先端」としての断章
A 「断章文学の洪水」──未完成の作品を示唆する出版書籍
B 雑誌メディアにおける断章──アウグストの翻訳の掲載を手掛かりに
(二)書簡に同封される草稿──断章を通じたロマン派の交流
(三)「断片的なもの」の流行に対するシュレーゲルの反応
第三節 転換点としての一七九七年──断片の受容から断章の産出へ
第二章 断章を構想する──術語的な語法への先鋭化
導入 「本来的な断章」をめぐって
第一節 一八世紀の断片思想からの影響関係
(一)ハーマンとヘルダー
(二)レッシングとシャンフォール
第二節 「本来的な断章」の起源としての古代叙事詩
(一)「アテネーウム断章集」のルーツと「ディアスコイアーゼ」の営み
(二)古代ギリシアの英雄叙事詩に備わる「思慮深さ」
第三節 個々の断章の自律性とその物質的条件
(一)断章に対する〈緊密性〉の要求
(二)物質と観念の両面性──「個体性」と「絶対性」への関係づけ
(三)「閉じているという感覚」と断片の〈完結性〉──「断章集」第二〇六篇を手掛かりに
第四節 断章の複数性──断章形式の成立条件に向けて
補記 断章とアフォリズム──ジャンル規定上の類似点
第三章 断章を書く──文体・書法の成立過程
導入 読書革命の時代──〈活字中心の世代〉としてのシュレーゲル
第一節 多読を通じた研究手法──「単なる読書」から「研究」へ
(一)大衆化する「孤独な読書」とそこに隠れた伝統的な黙読文化
(二)シュレーゲルにおける「研究」の概念規定──「循環的」読書
第二節 書きながら読む技術
(一)専門的な読書の系譜──文献学的技法の規定
(二)黙読における抄録、蒐集の実践──文献学的技法との関連性
第三節 断章の書法の成立──文献学的技法の変奏として
(一)統一的な〈著述〉からの逸脱
(二)作業場の主題化──手稿段階における諸断章
第四節 近代精神科学の挫折モデル?──文筆家シュレーゲルの多面性
《間奏》 「文献学」と「哲学」の分析──断章形式の一要素として
第一節 新しいメディアにおけるプラトン哲学の継承と発展
(一)断章形式における対話性
(二)言語神秘主義思想との関連
第二節 メディア的基盤としての「文献学」
(一)「文字」と「精神」──音声的要素の脱中心化についての試論
(二)「文字による刺激」としての文献学
第二部 文化技術としての断章的書記
第四章 読みながら書く──手稿断章群の書記現場(1)
導入 詩的エクリチュールから文化技術論へ──第二部の課題と主要な操作概念
第一節 シュレーゲルの手稿断章群についての基本情報
(一)『哲学的修業時代』と『文学ノート』──手帳への書記行為
(二)『文献学のために』──研究状況と複写版刊行
(三)「手稿」と「原稿」の区別
第二節 断章的書記の分析──『文献学のために』を手掛かりに
(一)文献学的技法から断章的書記へ
(二)検証(1)
A ハリス『文献学の探究』の〈抄録〉と〈批判〉
B テクストを読むことから〈考えを読む〉ことへ
(三)検証(2)
A 〈注釈〉のための余白と疑問符の機能
B 断章の筆記法とロマン主義的思考法
第三節 〈二次的・受動的〉書記──専門的な読書の脱中心性
(一)「自己読書」する作者から編集者の立場へ
(二)シュレーゲルにおける「うまく書く技術」──イロニー理論との対比から
第五章 下線を引く──手稿断章群の書記現場(2)
導入 断章的書記における下線強調の二つの役割
第一節 下線の使用頻度および手稿断章群の編集上の問題についての注記
第二節 〈編集工程〉における下線強調とシュレーゲルの編集美学
(一)検証(1)──手稿段階での指示記号の行方
A 「断章集」第四〇四篇に至るまでの手稿断章について
B 『アテネーウム』誌のタイポグラフィをめぐって
(二)すべての断章の均等な強調──下線を引かせるための活字体裁
第三節 手稿断章群における〈思考過程〉を支える下線強調
(一)検証(2)──〈論題〉選出の機能
(二)「吟唱される詩のように書かれたもの」──断章的書記と下線強調
第四節 断章的書記を可能にさせる筆記法──ロマン主義的「生成」を書く技術
第六章 組み合わせる──手稿断章群の書記現場(3)
導入 筆記法としての定型句と省略記号──抽象化された概念操作
第一節 相互の〈関係性〉を示す定型句
(一)検証(1)──「aとbの関係はcとdの関係に等しい」
(二)「機知」との関連づけ──レッシング論を手掛かりに
第二節 シュレーゲルによる「結合術」の実践?
(一)アルス・コンビナトリアの伝統との関連づけ
(二)試論 ライプニッツ『結合術論』との対応関係
第三節 〈同時性〉を示す定型句
(一)検証(2)──「aであると同時にbである」
(二)「最高の機知」との関連づけ──連続と非連続の同時性の記述
補記 開始地点に対する定型句──「~によって始まる」
第四節 術語に対する省略記号と図形による語の配置
(一)検証(3)──筆記と思考の効率化
(二)検証(4)──図形によるイメージの素描
第五節 「諸断章からなる客観的なシステム」の構想──非感情的なロマン主義?
結 論 断片・断章のメディア文化学
一 本書の振り返りと展望
二 これからの文化研究に向けて
あとがき
図版出典
参考文献
人名索引
書評掲載
「週刊読書人」(2023年01月13日号/山口裕之氏・評)に紹介されました。
「図書新聞」(2023年02月18日号/胡屋武志氏・評)に紹介されました。