新・カント読本

A5判 / 424ページ / 並製 / 価格 3,740円 (消費税 340円) 
ISBN978-4-588-15089-0 C1010 [2018年02月 刊行]

内容紹介

超越論哲学の構築と永遠平和論を通じて、形而上学・倫理学・美学の近代200年を決定づけたカント。その思想の現代的意義を、前批判期から晩年までの各テーマに即し、最新の視点で気鋭の研究があぶり出す。西洋先進諸国以外の地域でのカント受容史や、正義論や生命倫理学への寄与にも光をあて、哲学史への鋭い解釈を提示するコラムが多面的な哲学者像を映し出す。詳細年譜付の最良の手引き。

著訳者プロフィール

牧野 英二(マキノ エイジ)

1948年生。法政大学文学部哲学科教授。哲学。著書:『カントを読む』(岩波書店)、『遠近法主義の哲学』(弘文堂)、『崇高の哲学』『「持続可能性の哲学」への道』(以上、法政大学出版局)、『東アジアのカント哲学』(編著、法政大学出版局)。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序論 グローバル化時代の新たなカント像【牧野英二】

第一部 カント哲学のグローバルな展開
1 フランス語圏のカント受容──「人間」以後の超越論哲学の行方【宮﨑裕助】
2 英米圏のカント研究──経験論の伝統【城戸 淳】
3 スペイン語圏のカント研究──スペイン、メキシコでの展開【ドゥルセ・マリア・グランハ・カストロ】
4 イスラーム文化圏のカント研究──イランにおける受容と展開【セイェド・アリー・マフムーディ】
5 漢字文化圏のカント研究──その受容史と意義および課題【牧野英二】
6 ロシアのカント研究──グリガ以後、一九九六年から二〇一七年まで【ダニール・アロンソン】
7 ドイツ語圏における現在のカント研究──直面する課題と論争【ハイナー・F・クレンメ】
【コラム①】夏目漱石とカント──理性批判の世界反転光学【望月俊孝】

第二部 カント哲学の新しい読み方

批判哲学への途上
8 「常識」の概念とカントの思想形成──ドイツ啓蒙思想とスコットランド啓蒙思想からの影響 【長田蔵人】
9 ヴォルフの形而上学とその批判者たち──十八世紀後半ドイツにおける形而上学の展開【佐藤慶太】
【コラム②】カントとヘーゲル──「観念論」の再検討【加藤尚武】

理論哲学の主要論点
10 身体と時間・空間論──「直観の形式」と非ユークリッド幾何学【植村恒一郎】
11 カテゴリーの演繹論と図式論──超越論的真理概念をめぐって【鵜澤和彦】
12 『純粋理性批判』の自由論──自由のとしての「いま」【湯浅正彦】
【コラム③】新カント学派とは──歴史的再検証【大橋容一郎】

実践哲学の中心課題
13 道徳法則と法の定言命法──『人倫の形而上学』と倫理学の課題【小野原雅夫】
14 純粋理性宗教と歴史的信仰の相克──『宗教論』と「隠されたアンチノミー」の存在【大森一三】
15 カントと悪の問題──人間はなぜ現に悪を為してしまうのか【中島義道】

【コラム④】カントとハイデガー──心の闇を前にして【高田珠樹】

美学と目的論の射程
16 『判断力批判』における「自然の技巧」の体系的意義──解釈学的観点から【相原 博】
17 『判断力批判』における超越論的哲学の新たな可能性──反省的判断力の根源性【円谷裕二】

【コラム⑤】パースとカント プラグマティズムとカテゴリー論【伊藤邦武】

自然哲学と晩年の思想
18 自然哲学と自然の形而上学──カント自然哲学の変遷【犬竹正幸】
19 『オプス・ポストゥムム』のコンテクスト──遺稿著作はカント最晩年の思想か?【加藤泰史】

第三部 現代の哲学からみたカント哲学

カントと応用倫理学
20 カント倫理学と生命倫理──「人間の尊厳」という価値【蔵田伸雄】
21 カントにおける生と死の倫理学──有限な理性の奇妙な運命【三谷尚澄】
【コラム⑥】カントとエコロジカルな心の問題──生態学的観点から【河野哲也】

カントの永遠平和論・正義論
22 カントの正義論と人権論の射程──リベラリズムとリバタリアニズムの間【宇佐美公生】
23 永遠平和と世界市民主義──国境を超える正義【石田京子】

【コラム⑦】カント歴史哲学と物語り論──高坂正顕・坂部恵を導きの糸に【野家啓一】

カントと現代の言語哲学
24 コミュニケーション論の現代的意義──カントとハーバーマス【舟場保之】
25 超越論的記号論と価値の超越論的論証──シェーンリッヒとコースガード【近堂 秀】

カント年譜 物語風に【菅沢龍文/小谷英生】

■執筆者および訳者
(掲載章順)

宮﨑裕助(みやざき・ゆうすけ) 1974年生。新潟大学人文学部准教授。哲学。著書:『判断と崇高』(知泉書館)、共訳書:デリダ『哲学への権利2』(みすず書房)、同『有限責任会社』(法政大学出版局)、ド・マン『盲目と洞察』(月曜社)。

城戸 淳(きど・あつし) 1972年生。東北大学大学院文学研究科准教授。哲学。著書:『理性の深淵──カント超越論的弁証論の研究』(知泉書館)、訳書:アリソン『カントの自由論』(法政大学出版局)。

ドゥルセ・マリア・グランハ・カストロ(Dulce María Granja Castro) メキシコ市立大学教授。哲学。著書:『スペイン語圏におけるカント──文献目録』、『メキシコにおける新カント派』、『ソクラテス思想入門──倫理学の誕生』。

中野裕考(なかの・ひろたか) 1975年生。お茶の水女子大学准教授。哲学。共著:『哲学の体系性 現代カント研究14』(近刊、晃洋書房)、論文:“Die Selbstaffektion in der trans- zendentalen Deduktion”, in: Kant-Studien 102.

セイェド・アリー・マフムーディ(Seyed Ali Mahmoudi) 2003年Ph.D(政治学) 取得。School of International Relations准教授。政治哲学・道徳哲学。著書:Kant’s Political Philosophy, Political Thought in the Realm of Theoretical and Moral Philosophy, Negahe Moaser, 2008.

寺田俊郎(てらだ・としろう) 1962年生。上智大学文学部教授。哲学・倫理学。共著:『グローバル化時代の人権のために』(上智大学出版)、訳書:ダーウォル『二人称的観点の倫理学』(法政大学出版局)、論文:「共同の哲学的探究としての倫理学」(『倫理学年報』 63)。

ダニール・アロンソン(Daniil Aronson) 1988年生。ロシア科学アカデミー哲学会西洋哲学史部門リサーチ・フェロー。論文 「カントの実践哲学における超越論的演繹」(『哲学と文化』第11号)、「思弁なき哲学 カントのアイネシデモスへの応答」(『哲学史年鑑2016』)。

滝沢正之(たきざわ・まさゆき) 1973年生。駒澤大学総合教育研究部文化学部門講師。哲学。論文「カントにおける行為の自由と合理性」(『現代カント研究13』)、「認識論的な合理性と感性的直観」(『駒澤大学 文化』第35号)。

ハイナー・F.クレンメ(Heiner F. Klemme) 1962年生。マルティン・ルター大学教授。哲学。著書:『カントの主体の哲学』『自律の理念』『カントとヨーロッパ啓蒙思想の将来』『カントの『人倫の形而上学の基礎づけ』体系的コンメンタール』。

千葉清史(ちば・きよし) 1972年生。早稲田大学社会科学総合学術院准教授。哲学。著書:Kants Ontologie der raumzeitlichen Wirklichkeit(Walter de Gruyter)、論文:「直観主義数学の非時間的真理概念」(『東北哲学会年報』第30号)。

望月俊孝(もちづき・としたか) 1960年生。福岡女子大学国際文理学部教授。哲学。著書:『漱石とカントの反転光学──行人・道草・明暗双双』、『物にして言葉──カントの世界反転光学』(以上、九州大学出版会)。

長田蔵人(おさだ・くらんど) 1972年生。明治大学農学部講師。哲学史。論文:「カントの事象性と感覚印象の理論」(『日本カント研究』第18号)、「スコットランド啓蒙の形而上学」(同第16号)。

佐藤慶太(さとう・けいた) 1977年生。香川大学大学教育基盤センター准教授。哲学史。共著:『カントを学ぶ人のために』(世界思想社)、論文:「テーテンスとカント──「超越的/超越論的」をめぐって」(『哲学』第66号)。

加藤尚武(かとう・ひさたけ) 1937年生。京都大学名誉教授。哲学・環境倫理学・生命倫理学。著書:『現代倫理学入門』(講談社学術文庫)、『ヘーゲル哲学の形成と原理』『哲学原理の転換』(以上、未來社)、『加藤尚武著作集』(全15巻、未來社、刊行中)。

植村恒一郎(うえむら・つねいちろう) 1951年生。東京女子大学非常勤講師。哲学。著書:『時間の本性』(勁草書房、和辻哲郎文化賞)。訳書:カント『視霊者の夢』(『カント全集 第3巻』岩波書店)、バークリ『視覚新論』(勁草書房)。

鵜澤和彦(うざわ・かずひこ) 1960年生。法政大学大学院人文科学研究科兼任講師。哲学。論文:“Einbildungskraft – Philosophische Bildtheorie bei Leibniz, Hume und Kant”(ミュンスター大学学位論文)、「感性的概念の図式」(『日本カント研究』第13号)。

湯浅正彦(ゆあさ・まさひこ) 1956年生。立正大学文学部哲学科教授。哲学・倫理学。著書:『存在と自我』(勁草書房)、『超越論的自我論の系譜』(晃洋書房)、共編著:『哲学 はじめの一歩』(春風社)。

大橋容一郎(おおはし・よういちろう) 1952年生。上智大学文学部哲学科教授。哲学・文化交渉学。著書:『ドイツ哲学と日本哲学』(昭和堂)、訳書:『カント全集 第1巻』(岩波書店)、論文:「新カント学派と近代日本」(『思想』1118号)。

小野原雅夫(おのはら・まさお) 1961年生。福島大学人間発達文化学類教授。倫理学専攻。共編著『現代カント研究11 判断力の問題圏』(晃洋書房)、監訳書:シセラ・ボク『共通価値──文明の衝突を超えて』(法政大学出版局)。

大森一三(おおもり・いちぞう) 1982年生。法政大学文学部兼任講師。哲学。論文:「隠されたアンチノミーとその解決────カントにおける文化の進歩と道徳について」(法政大学博士論文)、「カント 「教育論」 における 「道徳化」 の意味とその射程」(『教育哲学研究』 107号)。

中島義道(なかじま・よしみち) 1946年生。元電気通信大学教授。哲学。「哲学塾カント」主宰。著書:『哲学の教科書』(講談社学術文庫)、『カントの人間学』(講談社現代新書)、『カントの自我論』(岩波現代文庫)。

高田珠樹(たかだ・たまき) 1954年生。大阪大学教授、哲学・ドイツ思想史。著書:『ハイデガー 存在の歴史』(講談社学術文庫)。訳書:スローターダイク『シニカル理性批判』(ミネルヴァ書房)、ハイデガー『存在と時間』(作品社)。

相原 博(あいはら・ひろし) 1975年生。法政大学・法政大学大学院兼任講師・国士舘大学非常勤講師。哲学。著書:『カントと啓蒙のプロジェクト──『判断力批判』における自然の解釈学』(法政大学出版局)。

円谷裕二(つぶらや・ゆうじ) 1952年生。九州大学哲学講座教授。哲学。著書:『経験と存在──カントの超越論的哲学の帰趨』(東京大学出版会)、『知覚・言語・存在──メルロ=ポンティ哲学との対話』(九州大学出版会)。

伊藤邦武(いとう・くにたけ) 1949年生。龍谷大学文学部教授。哲学。著書:『プラグマティズム入門』(ちくま新書)、『物語 哲学の歴史』(中公新書)、訳書:パース『連続性の哲学』、ジェイムズ『純粋経験の哲学』(以上、岩波文庫)。

犬竹正幸(いぬたけ・まさゆき) 1952 年生。拓殖大学政経学部教授。哲学。著書:『カントの批判哲学と自然科学』(創文社)、『哲学と人間観』(梓出版社)、訳書:『カント全集12 自然の形而上学』(岩波書店)。

加藤泰史(かとう・やすし) 1956 年生。一橋大学大学院社会学研究科教授。哲学・倫理学。論文:「尊厳概念史の再構築に向けて」(『思想』第1114号)、編著:『尊厳概念のダイナミズム』(法政大学出版局)、共著:『思想間の対話』(法政大学出版局)。

蔵田伸雄(くらた・のぶお) 1963年生。北海道大学大学院文学研究科教授。倫理学。論文:「カント倫理学と動機内在主義」(加藤・舟場編『現代カント研究13 カントと現代哲学』晃洋書房)。

三谷尚澄(みたに・なおずみ) 1974年生。信州大学人文学部准教授。哲学・倫理学。著書:『哲学しててもいいですか』、『若者のための〈死〉の倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)。

河野哲也(こうの・てつや) 1963年生。立教大学文学部教授。哲学。著書:『エコロジカルな心の哲学』(勁草書房)、『いつかはみんな野生にもどる──環境の現象学』(水声社)、J.コール『スティル・ライブズ』(共訳、法政大学出版局)。

宇佐美公生(うさみ・こうせい) 1957年生。岩手大学教育学部教授。倫理学・哲学。共著:『尊厳概念のダイナミズム』(法政大学出版局)、『倫理学の地図』(ナカニシヤ出版)、訳書:ヨナス『主観性の復権』(東信堂)。

石田京子(いしだ・きょうこ) 1979年生。慶應義塾大学文学部助教。倫理学。論文:「カントによる〈世界共和国否定論〉の再検討」(日本哲学会『哲学』第65号)、共訳書:ケアスティング『自由の秩序』(ミネルヴァ書房)。

野家啓一(のえ・けいいち) 1949年生。東北大学名誉教授・総長特命教授。哲学・科学基礎論。著書:『物語の哲学』『歴史を哲学する』(以上、岩波現代文庫)、『科学哲学への招待』(ちくま学芸文庫)、『パラダイムとは何か』(講談社学術文庫)。

舟場保之(ふなば・やすゆき) 1962年生。大阪大学大学院文学研究科教授。哲学。共編著:『グローバル化時代の人権のために』(上智大学出版)、『カントと現代哲学』(晃洋書房)、共監訳書:ケアスティング『自由の秩序』(ミネルヴァ書房)。

近堂 秀(こんどう・しゅう) 1965年生。法政大学ほか非常勤講師。著書:『『純粋理性批判』の言語分析哲学的解釈──カントにおける知の非還元主義』(晃洋書房)、共訳書:ロックモア『カントの航跡のなかで』(法政大学出版局)。

菅沢龍文(すがさわ・たつぶみ) 1957年生、法政大学文学部教授。哲学。論文:「ヨブの幸福とカント──最高善概念を手がかりに」(『法政大学文学部紀要』第70号)、共訳書:M.キューン『カント伝』(春風社)。

小谷英生(こたに・ひでお) 1981年生。群馬大学教育学部准教授。哲学・倫理学・社会思想史。共著:『原子論の可能性』(近刊、法政大学出版局)、『現代カント研究14』(晃洋書房)。

関連書籍

『カントの自由論』
ヘンリー・E. アリソン:著
『二人称的観点の倫理学』
スティーヴン・ダーウォル:著
『カント入門講義 〈新装版〉』
H.M.バウムガルトナー:著
『ハイデガー読本』
秋富 克哉:編
『サルトル読本』
澤田 直:編
『リクール読本』
鹿島 徹:編