軍需優先の戦時体制のもとで生じた医療者や医薬品の不足は、いかに銃後の傷病人を苦しめ、多くの命を奪うことになったのか。そして、戦時下に形成された医療体制は戦後どのような展開を遂げ、コロナ禍の現代とつながっているのか。戦時という不確かな時空を生きた人びとの膨大な証言・体験・記憶に基づき、非常時の暮らしを精緻に描き出す。日本医療社会史の第一人者による集大成の書。
新村 拓(シンムラ タク)
1946年静岡県生。早稲田大学大学院文学研究科博士課程に学ぶ。文学博士(早大)。高校教諭、京都府立医科大学教授、北里大学教授を経て北里大学名誉教授。著書に、『古代医療官人制の研究』(1983年)、『日本医療社会史の研究』(85年)、『死と病と看護の社会史』(89年)、『老いと看取りの社会史』(91年)──以上の4書にてサントリー学芸賞を受賞。『ホスピスと老人介護の歴史』(92年)、『出産と生殖観の歴史』(96年)、『医療化社会の文化誌』(98年)、『在宅死の時代』(2001年)、『痴呆老人の歴史』(02年)、『健康の社会史』(06年)、『国民皆保険の時代』(11年)、『日本仏教の医療史』(13年、矢数医史学賞を受賞)、『近代日本の医療と患者』(16年)、『売薬と受診の社会史』(18年、以上いずれも法政大学出版局)。編著に、『日本医療史』(06年,吉川弘文館)ほか。
※上記内容は本書刊行時のものです。第一章 統制に翻弄される薬業界と消費者
第一節 人びとを買溜めに走らせた薬飢饉
一 薬局を潤す値上げとサルファ剤の発売
二 廃業を招いた薬不足と店員欠乏
第二節 見直される伝統医療
一 国保施行に反対する売薬協会の言い分
二 日本医学の確立を叫ぶ声
三 洋薬不足を補う伝統薬と業界再編
第三節 戦時統制下の製薬 戦後の医薬品貿易
一 原料不足で頭打ちとなった製薬
二 医薬品の物資動員計画
三 精神論に傾く計画 製薬企業の統廃合
四 医薬品生産の軍需優先に困惑する国民
五 企業の苦境を救う特別経理会社指定
六 戦後に再導入した医薬品統制
七 外資導入を図る大手製薬企業
八 GHQ管理の医薬品貿易
九 開始された民間貿易と医薬品
第四節 サルファ剤に取って代わるペニシリン
一 観念的日本主義に傾いた科学技術振興策
二 情報と石炭不足が招く開発の遅れ
三 駐留軍の性病対策に回されたペニシリン
四 ペニシリン価格の下落
第二章 疲弊した医師 激変する戦後医療
第一節 繁多な業務と薬不足に悩む医師
一 能力申告から業務従事命令へ
二 続出する病医院の休廃業と関係者の疎開
三 悲鳴をあげる多忙な開業医
四 戦時下に増えつづける病と減る病
五 医薬品配給を担う「医師隣組」
六 戦後社会に溢れ出た引揚医師と粗悪な薬
七 医療費支出が増える給料生活者
第二節 内地勤務となった軍医の生活
一 志願を要請された軍医予備員候補者
二 内地の連隊区軍医が担う業務内容
三 軍規弛緩した敗戦時の軍隊
四 備蓄品を持ち出す兵に向けられた視線
五 栄養剤・ヒロポンで乗り切った日々
六 軍医給料と開業収入による暮らし
第三節 生阿片の生産と麻酔薬
一 不足する麻酔薬 増産に励む生阿片
二 麻薬・メチルアルコールの取締り
第四節 医師速成からの転換を迫る戦後医学教育
一 分化した医学教育と医療レベルの二極化
二 噴出する医師速成の弊害
三 疎開で苦労した医専
四 医学教育改革と米国医学礼賛
五 国試とインターン制度導入に困惑
六 存廃の岐路に立たされた医専
第五節 激変する医療環境
一 死生観の転換を迫った罹災死体処理
二 需給逼迫の看護婦・付添婦・女中
三 自炊から給食に向かう戦後の入院療養
四 国立病院に残った嫌な雰囲気
五 民間に任された戦後医療提供体制
第三章 体力増進と人口増殖に注力した総力戦
第一節 健康・保健報国を求める健民運動
一 人的物的資源の統制
二 国家管理となる青少年の体力
三 乳幼児死亡対策に奔走する保健婦
四 人的資源培養の鍵となった結核対策
五 大政翼賛会厚生部が取り組む医界新体制
六 厚生運動としての温泉利用
第二節 兵士の供給地を支える医療のあり方
一 関係者の不評を買った健保の施行
二 窮乏農村における時局匡救事業と医療
三 妨害を受けた実費診療所・医療利用組合
四 国保組合代行を認められた医療利用組合
五 皆保険に向けた国保の展開と厚生省
六 総力戦を担う改正健保と国保整備
七 実質の乏しい国民皆保険体制
八 有名無実化した戦後の保険診療
第三節 日本医療団への期待と反発
一 医師会が反発した医薬制度改善方策
二 日本医療団が求める医療のあり方
三 保健婦を活用した無医村対策
四 日本医療団の改革案と解散
第四章 結核と梅毒を拡散させた貧困と戦争
第一節 結核対策に注力した軍部と厚生省
一 粗食により患者も逃げ出す公立結核療養所
二 帯患帰郷の結核女工・少年工と軍隊結核の拡大
三 結核要注意・筋骨薄弱者を鍛錬する健民修錬所
四 結核療養所を代替する安上がりの奨健寮
五 戦後医療・福祉に重くのしかかった結核
第二節 兵士とその家族が負った重荷
一 壮丁・女工・芸妓に蔓延する花柳病
二 学業短縮から前倒しの徴兵検査へ
三 応召者と家族を追い詰める経済不安
四 出征兵士に慰問袋 傷病兵に温泉療養
五 留守家族・遺家族らが受ける扶助と医療
六 本土送還となった傷病兵の療養事情
七 傷痍軍人や遺族らの戦後
第五章 徴用の不足を補う学徒勤労動員
第一節 労働力の消耗に拍車をかけた徴用
一 激増する徴用と過労による健康破壊
二 生産性の増強を図る経済新体制
三 増加する徴用拒否 詐病欠勤による抵抗
四 低賃金に不満を抱く産業戦士
五 虚弱な徴用工 人権無視の工場主
六 軍需会社の高利潤が生んだ戦争成金
七 勤労態度にみる徴用工・挺身隊・学徒
八 毒ガス製造で被った障害
第二節 動員学徒が味わった悲哀
一 勉学よりも労働優先の日々
二 食糧・睡眠不足で生理が止まった女子
三 精神注入棒に怯えた男子
四 欠勤を招いた医療管理体制の不備と食糧難
五 健康復興が先とされた戦後の授業再開
第六章 防空法制下の不自由な暮らし
第一節 隣組が映し出す戦時社会
一 配給に翻弄される生活
二 インフレ抑制と軍事費に回される貯蓄公債
三 買わされた公債の換金に走る人びと
四 入浴も困難になった生活インフラの統制
五 不都合な灯火管制 無意味な消火訓練
六 神経衰弱を惹起した警報と待避
七 必須とされた血液型検査と常備薬の斡旋
八 被災救護が間に合わない大都市
第二節 投薬拒否と減食に直面した戦力外の人びと
一 戦況に左右された老人の立ち位置
二 悪化する処遇と中傷に晒された病人・障がい者
第三節 戦中戦後の欠乏生活
一 食糧配給制がもたらした体重減の現実
二 脚気の流行 闇取引の横行
三 買出しで味わった悲哀とインフレ成金
四 栄養失調が続出する戦後の食糧事情
五 物価急騰と預貯金封鎖に驚く人びと
六 統制廃止に向かう医薬品
第七章 建物疎開と学童集団疎開
第一節 憂き目をみた人びと
一 重要工場・駅付近の家を壊す建物疎開
二 家具類売却に走らせた人員疎開・縁故疎開
三 高騰する疎開費用 苦労する田舎暮らし
四 疎開時期も決断しかねる情報管制に不信感
第二節 医療過疎地に集中した学童集団疎開
一 食糧と医療の対応に追われる日々
二 学寮での性病感染対策と教科書墨塗りの記憶
三 食糧難による体重減と免疫力の低下
四 村童のいじめと「疎開病」に苦しむ学童
第八章 熱帯医学と検疫と進駐軍
第一節 南方進出を支えた熱帯医学研究
一 医療宣撫を担う同仁会と台北帝大付属医専
二 渡航に必須の予防注射 国内に広がる熱帯病
第二節 検疫とDDT
一 引揚者・帰還兵に向けた水際対策
二 進駐軍の公衆衛生対策を印象づけたDDT
第九章 予防薬と流行薬
第一節 防疫の核とされた予防注射と鼠・昆虫等駆除
一 ヂフテリヤの血清不足と戦後の接種禍
二 子どもを襲う麻疹 引揚者が持込む天然痘
三 医療対応に苦慮した疫痢の猛威
四 チフスに必要な予防注射とシラミ退治
第二節 戦中戦後の流行薬とヒロポン
一 神経衰弱に効くというホルモン注射
二 栄養失調・疲労・生活不安を慰めたビタミン剤
三 虫下しが欠かせない生活に国産サントニン
四 軍需と戦後の社会混乱が広めたヒロポン・麻薬
あとがき
索 引
第一節 人びとを買溜めに走らせた薬飢饉
一 薬局を潤す値上げとサルファ剤の発売
二 廃業を招いた薬不足と店員欠乏
第二節 見直される伝統医療
一 国保施行に反対する売薬協会の言い分
二 日本医学の確立を叫ぶ声
三 洋薬不足を補う伝統薬と業界再編
第三節 戦時統制下の製薬 戦後の医薬品貿易
一 原料不足で頭打ちとなった製薬
二 医薬品の物資動員計画
三 精神論に傾く計画 製薬企業の統廃合
四 医薬品生産の軍需優先に困惑する国民
五 企業の苦境を救う特別経理会社指定
六 戦後に再導入した医薬品統制
七 外資導入を図る大手製薬企業
八 GHQ管理の医薬品貿易
九 開始された民間貿易と医薬品
第四節 サルファ剤に取って代わるペニシリン
一 観念的日本主義に傾いた科学技術振興策
二 情報と石炭不足が招く開発の遅れ
三 駐留軍の性病対策に回されたペニシリン
四 ペニシリン価格の下落
第二章 疲弊した医師 激変する戦後医療
第一節 繁多な業務と薬不足に悩む医師
一 能力申告から業務従事命令へ
二 続出する病医院の休廃業と関係者の疎開
三 悲鳴をあげる多忙な開業医
四 戦時下に増えつづける病と減る病
五 医薬品配給を担う「医師隣組」
六 戦後社会に溢れ出た引揚医師と粗悪な薬
七 医療費支出が増える給料生活者
第二節 内地勤務となった軍医の生活
一 志願を要請された軍医予備員候補者
二 内地の連隊区軍医が担う業務内容
三 軍規弛緩した敗戦時の軍隊
四 備蓄品を持ち出す兵に向けられた視線
五 栄養剤・ヒロポンで乗り切った日々
六 軍医給料と開業収入による暮らし
第三節 生阿片の生産と麻酔薬
一 不足する麻酔薬 増産に励む生阿片
二 麻薬・メチルアルコールの取締り
第四節 医師速成からの転換を迫る戦後医学教育
一 分化した医学教育と医療レベルの二極化
二 噴出する医師速成の弊害
三 疎開で苦労した医専
四 医学教育改革と米国医学礼賛
五 国試とインターン制度導入に困惑
六 存廃の岐路に立たされた医専
第五節 激変する医療環境
一 死生観の転換を迫った罹災死体処理
二 需給逼迫の看護婦・付添婦・女中
三 自炊から給食に向かう戦後の入院療養
四 国立病院に残った嫌な雰囲気
五 民間に任された戦後医療提供体制
第三章 体力増進と人口増殖に注力した総力戦
第一節 健康・保健報国を求める健民運動
一 人的物的資源の統制
二 国家管理となる青少年の体力
三 乳幼児死亡対策に奔走する保健婦
四 人的資源培養の鍵となった結核対策
五 大政翼賛会厚生部が取り組む医界新体制
六 厚生運動としての温泉利用
第二節 兵士の供給地を支える医療のあり方
一 関係者の不評を買った健保の施行
二 窮乏農村における時局匡救事業と医療
三 妨害を受けた実費診療所・医療利用組合
四 国保組合代行を認められた医療利用組合
五 皆保険に向けた国保の展開と厚生省
六 総力戦を担う改正健保と国保整備
七 実質の乏しい国民皆保険体制
八 有名無実化した戦後の保険診療
第三節 日本医療団への期待と反発
一 医師会が反発した医薬制度改善方策
二 日本医療団が求める医療のあり方
三 保健婦を活用した無医村対策
四 日本医療団の改革案と解散
第四章 結核と梅毒を拡散させた貧困と戦争
第一節 結核対策に注力した軍部と厚生省
一 粗食により患者も逃げ出す公立結核療養所
二 帯患帰郷の結核女工・少年工と軍隊結核の拡大
三 結核要注意・筋骨薄弱者を鍛錬する健民修錬所
四 結核療養所を代替する安上がりの奨健寮
五 戦後医療・福祉に重くのしかかった結核
第二節 兵士とその家族が負った重荷
一 壮丁・女工・芸妓に蔓延する花柳病
二 学業短縮から前倒しの徴兵検査へ
三 応召者と家族を追い詰める経済不安
四 出征兵士に慰問袋 傷病兵に温泉療養
五 留守家族・遺家族らが受ける扶助と医療
六 本土送還となった傷病兵の療養事情
七 傷痍軍人や遺族らの戦後
第五章 徴用の不足を補う学徒勤労動員
第一節 労働力の消耗に拍車をかけた徴用
一 激増する徴用と過労による健康破壊
二 生産性の増強を図る経済新体制
三 増加する徴用拒否 詐病欠勤による抵抗
四 低賃金に不満を抱く産業戦士
五 虚弱な徴用工 人権無視の工場主
六 軍需会社の高利潤が生んだ戦争成金
七 勤労態度にみる徴用工・挺身隊・学徒
八 毒ガス製造で被った障害
第二節 動員学徒が味わった悲哀
一 勉学よりも労働優先の日々
二 食糧・睡眠不足で生理が止まった女子
三 精神注入棒に怯えた男子
四 欠勤を招いた医療管理体制の不備と食糧難
五 健康復興が先とされた戦後の授業再開
第六章 防空法制下の不自由な暮らし
第一節 隣組が映し出す戦時社会
一 配給に翻弄される生活
二 インフレ抑制と軍事費に回される貯蓄公債
三 買わされた公債の換金に走る人びと
四 入浴も困難になった生活インフラの統制
五 不都合な灯火管制 無意味な消火訓練
六 神経衰弱を惹起した警報と待避
七 必須とされた血液型検査と常備薬の斡旋
八 被災救護が間に合わない大都市
第二節 投薬拒否と減食に直面した戦力外の人びと
一 戦況に左右された老人の立ち位置
二 悪化する処遇と中傷に晒された病人・障がい者
第三節 戦中戦後の欠乏生活
一 食糧配給制がもたらした体重減の現実
二 脚気の流行 闇取引の横行
三 買出しで味わった悲哀とインフレ成金
四 栄養失調が続出する戦後の食糧事情
五 物価急騰と預貯金封鎖に驚く人びと
六 統制廃止に向かう医薬品
第七章 建物疎開と学童集団疎開
第一節 憂き目をみた人びと
一 重要工場・駅付近の家を壊す建物疎開
二 家具類売却に走らせた人員疎開・縁故疎開
三 高騰する疎開費用 苦労する田舎暮らし
四 疎開時期も決断しかねる情報管制に不信感
第二節 医療過疎地に集中した学童集団疎開
一 食糧と医療の対応に追われる日々
二 学寮での性病感染対策と教科書墨塗りの記憶
三 食糧難による体重減と免疫力の低下
四 村童のいじめと「疎開病」に苦しむ学童
第八章 熱帯医学と検疫と進駐軍
第一節 南方進出を支えた熱帯医学研究
一 医療宣撫を担う同仁会と台北帝大付属医専
二 渡航に必須の予防注射 国内に広がる熱帯病
第二節 検疫とDDT
一 引揚者・帰還兵に向けた水際対策
二 進駐軍の公衆衛生対策を印象づけたDDT
第九章 予防薬と流行薬
第一節 防疫の核とされた予防注射と鼠・昆虫等駆除
一 ヂフテリヤの血清不足と戦後の接種禍
二 子どもを襲う麻疹 引揚者が持込む天然痘
三 医療対応に苦慮した疫痢の猛威
四 チフスに必要な予防注射とシラミ退治
第二節 戦中戦後の流行薬とヒロポン
一 神経衰弱に効くというホルモン注射
二 栄養失調・疲労・生活不安を慰めたビタミン剤
三 虫下しが欠かせない生活に国産サントニン
四 軍需と戦後の社会混乱が広めたヒロポン・麻薬
あとがき
索 引