カオズモポリタン文学案内
世俗的リアリズムと本能の美学

四六判 / 380ページ / 上製 / 価格 4,400円 (消費税 400円) 
ISBN978-4-588-46022-7 C1098 [2023年08月 刊行]

内容紹介

国家や宗教、言語や民族の壁を超え、移民・難民・性的少数者の経験のみならず、「私民」かつ市民としての声を地球上のさまざまな地域で響かせはじめた現代最先端の世界文学。進行する資本主義の支配に対抗し、喪われたアイデンティティの場を故郷として、逞しくこの世を生き抜く美学的・政治的・世俗的なリアリズムを、100点を優に超える「カオズモポリタン」な作品群に読み解く未踏の文学論!

著訳者プロフィール

大熊 昭信(オオクマ アキノブ)

大熊 昭信 1944年生まれ。群馬県出身。東京教育大学英語学英米文学科卒、東京都立大学大学院および東京教育大学大学院で修士課程修了。筑波大学教授、成蹊大学文学部教授を歴任。ブレイク論で博士(文学)。著書に『わが肉体 大熊昭信詩集』(新世紀書房、1978)、『ブレイクの詩霊 脱構築する想像力』(八潮出版社、1988)、『感動の幾何学1 方法としての文学人類学』(彩流社、1992)、『感動の幾何学2 文学的人間の肖像』(彩流社、1994)、『ウィリアム・ブレイク研究 「四重の人間」と性愛、友愛、犠牲、救済をめぐって』(彩流社、1997)、『文学人類学への招待 生の構造を求めて』(NHKブックス、1997)、(月丘ユメジの筆名で)『狐』(新風舎、1999)、『D・H・ロレンスの文学人類学的考察 性愛の神秘主義、ポストコロニアリズム、単独者をめぐって』(風間書房、2009)、『無心の詩学──大橋政人、谷川俊太郎、まど・みちおと文学人類学的批評』(風間書房、2012)、『グローバル化の中のポストコロニアリズム』(共編著、風間書房、2013)、『存在感をめぐる冒険──批判理論の思想史ノート』(法政大学出版局)、翻訳多数。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第一章 カオズモポリタン文学とは何か

1 カオズモポリタンとは誰か
2 アナーキーなカオズモポリタン
3 世俗的リアリズム
4 生存の様式としての美的生活
5 リアリズムとミメーシス──世俗的リアリズムの美学のほうへ
6 フェレシュテ・モラヴィの「幻肢」の世俗的リアリズム

第二章 世俗的リアリズム──そのものの見方・感じ方・振る舞い方

1 常識あるいは狡知──ウィンサム、オデュッセウス、ゾフラの場合
2 レイラ・アブルエラの『抒情詩通り』に見る世俗的人間の生態
3 エリフ・シャファクの『愛の四〇の規則』──聖を取り込む俗
4 美的生活と審美主義──ナボコフのプルースト論を読むローティ
5 美的生活と自己の存在感という幸福
6 アイデンティティ──自己の解体と創造
 (1)アイデンティティの基礎としての存在感と帰属感
 (2)アイデンティティの零からの創造
 (3)自己解体から自己創造へ──アミナッタ・フォルナ『幸福』のローズの場合
 (4)存在感の呪縛からの解縛による自己創造
 (5)自己相対化の技法としてのユーモアとアイロニー
7 フェミニズムの性の相対化と自己創造──エヴァリストの『娘、女、その他』
8 世俗的人間の条件──運命と偶然とカオズモポリタンの死生観
 (1)運 命
 (2)偶 然
 (3)死と永遠の生──世俗的リアリズムの死生観
9 ユートピア
 (1)ユートピアとしてのニッチの形成──アーザル・ナフィーシーの『テヘランでロリータを読む』
 (2)ユートピアへ向かう偶発的連帯──アミナッタ・フォルナの『幸福』
 (3)ユートピアのヴィジョンまたはアナーキーな国家は偶然に誕生する──ナムワリ・セルペルの『オールド・ドリフト』
10 〈今ここ〉にあるディストピア──国家と世俗的人間のエゴイズムと悪
 (1)私的悪と権力の悪──ヘゲドンの『ドッグイーターズ』
 (2)覇権国家の権力悪と裏社会の悪──マーロン・ジェイムズの『七件の殺人小史』

第三章 資本主義リアリズムVS世俗的リアリズム──今日的問題

1 モーシン・ハミッドの資本主義リアリズム診断
2 資本主義リアリズムからのカオズモポリタン的離脱──ハリ・クンズルの『トランスミッション』
3 資本の論理を穿つ私的欲望の社会化──バーナダイン・エヴァリストの『娘、母、その他」のブンミとアマの場合
4 小説の創作による〈私民〉から批判的〈市民〉への変容──ゴーパル・バラタムの『蠟燭それとも太陽』

第四章 帰属とアイデンティティ──カオズモポリタン文学のショーケース①

1 国家のイデオロギーに同化するか、否か──マドリン・ティエンの『何も持っていないなどと言うな』
2 帰属の転向または伝統的生活から近代的ライフスタイルへ──インボロ・ムブエの『かつて故郷の村は美しかった』
3 国家に拒絶された帰属──ジュノ・ディアスの『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』
4 見出された伝統への帰属──スーザン・アブルハワの『ジェニンの朝』
5 帰属の失敗──ダムブゾー・マレチェラの『飢餓の家』
6 脱帰属という形の自己発見──シャニ・ボイアンジュの『永遠の人々は恐れない』
7 帰属すべき共同体の創生──アマール・アブダルハミードの『月経』
8 未来の共同体への帰属──ディルマン・ディラの「遠くの海の四つの照明」

第五章 哀悼と贖罪、断罪と赦免、復讐と救済──カオズモポリタン文学のショーケース②

1 断罪と慰謝──P・ドゥジェリ・クラークの『リングシャウト』
2 屈辱と復讐──ラシュディの『道化師シャリマール』と名誉殺人
3 帰属する共同体の過去の罪に対する贖罪──カズオ・イシグロの『僕たちが孤児だった頃』とクッツェーの『恥』
4 他者の受難への共感と哀悼──ハ・ジン『南京レクイエム』とキャリル・フィリップス『血の本質』
5 共同体の罪に対する個人的懺悔──オイゲン・O・キロヴィッチの『第二の死』

第六章 世俗的リアリズムの本能の美学

1 世俗的リアリズムの美とはなにか、どこから生まれるのか
 (1)美、美的感覚、美的概念、美的範疇、美的生活
 (2)美と本能──バークとヴォリンガーの美的範疇と様式の起源
 (3)世俗的リアリズムの美学スケッチ──美的概念の取り扱い
 (4)ジャンルの生成
2 様式の美の三福対──古典主義、マニエリスム、世俗的リアリズム
3 感動の美──官能性から行動へ
 (1)伝染する感動の美
 (2)生の直接性に届く言葉
 (3)カタルシスと文学の官能性
 (4)煽情から行動へ
 (5)ハッサン・アブダルラザクの「クスジブ」のエロ・グロ・ナンセンス
4 カオズモポリタン文学と大衆性
5 バフチンのグロテスク・リアリズム、ドールスのバロック、ホッケの悲喜劇

第七章 『影の王』──カオズモポリタン文学の生成、小説的要素、大衆性

1 『影の王』と創作のフォーマット
 (1)構 成
 (2)大衆的視点人物としてのヒルト
2 『影の王』と小説的要素
3 『影の王』の大衆性──エロ・グロ・ナンセンス

第八章 カオズモポリタンの小説の手法
1 声と文体──地域の声と外部の声と〈どこにも属さない声〉
2 エクソフォニー
3 グロテスク・リアリズム、シュールレアリスム、マジック・リアリズムとその刷新
 (1)グロテスク・リアリズム──ポール・マーシャルの『ある讃歌』
 (2)シュールレアリスム──ヘモンの『ノーホエア・マン』
 (3)マジック・リアリズム──テア・オブレヒトの『虎の女房』
4 パロディとしての翻案──ラーウィ・ヘイグの『デ・ニーロのゲーム』

第九章 カオズモポリタン文学に見る小説のジャンル

1 冒険小説──ミロスラフ・ペンコフの『鸛の山』
2 ファンタスティック・ホラー──M・G・ダーウィシュの『タイタンロード』
3 SF
 (1)ファンタスティックSF──ンネディ・オコラフォの『ビンティ』
 (2)ディストピアSF──エンミ・イタランタの『水の記憶』
4 スリラー──アーガ・レシーヴィッチの『露出』
5 実験的小説──ラビ・アラメダインの『私、聖なるもの』とテレサ・ハッキョン・チャの『ディクテ』
6 混在するジャンル──デイヴィッド・ミッチェルの『ゴーストライター』

参照文献
参照作家一覧
後書き
事項索引
人名索引