叢書・ウニベルシタス 87
ミニマ・モラリア〈新装版〉
傷ついた生活裡の省察

四六判 / 422ページ / 上製 / 価格 4,950円 (消費税 450円) 
ISBN978-4-588-09915-1 C1310 [2009年11月 刊行]

内容紹介

現代文明に無惨にも蚕食された個人生活の隠微な局面、あるいは個人との関わりにおいて捉えられた人生百般や文化の諸領域に深く立ち入り、鋭敏な感受性と強靭な思考力が一体化して紡ぎ出した批判的省察。習慣や身振り、趣味や知的営為など、日常生活と身辺の表層からマスメディアや大衆文化、思索と表現の現代的問題性を追究する。アドルノ哲学の真髄を示す150篇からなるアフォリズムの集成。

著訳者プロフィール

Th.W.アドルノ(アドルノ テーオドル)

(Theodor W. Adorno)
1903-1969。ドイツの哲学者・社会学者・美学者。フランクフルトの裕福なユダヤ系の家庭に生まれる。20代にアルバン・ベルクに作曲を学び、早くから音楽批評で活躍。W. ベンヤミンの影響を色濃く受けて、独自の思想を形成する。1930年代にM. ホルクハイマーの主宰する「社会研究所」のメンバーとなり、ナチスの政権獲得後は、イギリス、のちにアメリカへ亡命。戦後帰国して「社会研究所」の再建に努め、J. ハーバーマスらフランクフルト学派第二世代の俊英を育てた。ズールカンプ社から全20巻の「全集」のほかに、膨大な遺稿集が刊行されている。邦訳には、『啓蒙の弁証法』(ホルクハイマーとの共著、岩波書店)、『楽興の時』(白水社)、『アドルノ 文学ノート(全2巻)』(みすず書房)、『ゾチオロギカ』(ホルクハイマーとの共著)、『不協和音』(以上、平凡社)、『三つのヘーゲル研究』(筑摩書房)、『美の理論』(河出書房新社)、『本来性という隠語』(未來社)、『否定弁証法』(作品社)、『アルバン・ベルク』、『認識論のメタクリティーク』、『マーラー』、『アドルノ音楽論集 幻想曲風に』(以上、法政大学出版局)などがある。

三光 長治(サンコウ ナガハル)

1928年広島県に生まれる。1952年京都大学文学部独文科卒業、愛知大学講師、神戸大学助教授、埼玉大学教授、神戸松蔭女子学院大学教授を歴任し、現在、埼玉大学名誉教授。著書に『エルザの夢』(1987)、『アドルノのテルミノロギー』(1987)、『知られざるワーグナー』(1997)、『晩年の思想』(2004、以上、法政大学出版局)、『ワーグナー』(1990、新潮社/2013、平凡社)ほか。共訳書にアドルノ『楽興の時』(1969、白水社)、『ゾチオロギカ』(1970、イザラ書房/2012、平凡社)、『不協和音』(1971、音楽之友社/1998、平凡社)、『アドルノ 文学ノート(全2巻)』(2009、みすず書房)、ヴェステルンハーゲン『ワーグナー』(1973)、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』(1990)、『ニーベルングの指環(四部作)』(1992-1996、以上、白水社)、『友人たちへの伝言』(2012)、『ベートーヴェン』(2018、以上、法政大学出版局)、コジマ・ワーグナー『コジマの日記(全3巻)』(2007-2017、東海大学出版会/部)などがある。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

献辞
ミニマ・モラリア 第一部(一九四四年)
1 マルセル・プルーストのために
2 芝生のベンチ
3 水中の魚
4 最期(いまわ)に明らかになったこと
5 ドクトル、ご親切にどうも
6 アンチ・テーゼ
7 They, the people
8 いいかね、悪童どもにたぶらかされると
9 いい子だから嘘だけはついてはいけないよ
10 めいめいが独立して、心を合わせること
11 食卓とベッド
12 Inter pares(同類のなかで)
13 庇護と援助と助言
14 Le bourgeois revenant(ブルジョアの亡霊)
15 Le nouvel avare(現代の守銭奴)
16 礼節(タクト)の弁証法によせて
17 所有権留保
18 無宿人収容所
19 ノック不要
20 物臭太郎
21 本品のお取り代えはいたしません
22 角(つの)を矯めて
23 Plurale tantum(もともと複数形しかない名詞)
24 Tough Baby
25 彼らのことを思い出してはいけない
26 English spoken
27 On parle français(フランス語が通じます)
28 風景
29 小さな果物
30 Pro domo nostra(自家用)
31 猫を袋から取り出す
32 未開人が上等な人種であるとは限らない
33 戦火を遠くに見て
34 雲のなかを歩んではならない
35 文化への帰還
36 死にいたる健康
37 快楽原則の此岸
38 舞踏への勧誘
39 自我はエスである
40 いつもそれを口にするが、まともに考えたことはない
41 内と外で
42 思想の自由
43 嚇しは通用しない
44 ソクラテス以後の哲学者のために
45 「生成の途上にあるものはなんとすべて病的に見えることか」
46 思索のモラルによせて
47 De gustibus est disputandum(趣味嗜好について議論することは可能である)
48 アナトール・フランスのために
49 モラルと時間による序列
50 遺漏

ミニマ・モラリア 第二部(一九四五年)
51 鏡の裏
52 こうのとりはどこから子供たちを連れてくるか
53 シュワーベン人の悪ふざけ
54 盗賊
55 こんなことしてもいいかしら
56 系図の探究
57 掘り出し物
58 ヘッダ・ガブラーにまつわる真実
59 彼を見初めてからというもの
60 道徳のために一言
61 控訴審級
62 論述を手短に切りつめること
63 不死の死
64 モラルと文体
65 腹ぺこ
66 ごたまぜ
67 無法なしっぺ返し
68 人びとがお前をじっと見ている
69 細民たち
70 素人の意見
71 Pseudomenos(こじつけ論法)
72 落穂拾い
73 偏向
74 マンモス
75 冷たい宿
76 祝宴
77 競売
78 山のあなたに
79 Intellectus sacrificium intellectus(知性を犠牲にする知性)
80 診断
81 事の大・小
82 三歩下って
83 副総裁
84 時間割
85 検査
86 ハンス坊や
87 レスリング・クラブ
88 道化
89 凶報
90 聾唖院
91 ヴァンダル族
92 絵のない絵本
93 意匠と映像
94 政治劇
95 弱音器と太鼓
96 ヤーヌスの宮殿
97 モナド
98 遺産
99 試金
100 水の上

ミニマ・モラリア 第三部(一九四六―四七年)
101 温室植物
102 そんなに急がないで
103 荒野の少年
104 金門湾
105 ものの十五分ばかり
106 花という花
107 Ne cherchez plus mon coeur(わたしの心を求めないで)
108 蜥蜴姫
109 L'inutile beauté(あだ花)
110 コンスタンッェ
111 フィレモンとバウチス
112 Et dona ferentes(物を贈って来ようとも)
113 興ざまし
114 ヘリオトロープ
115 混ぜもののないワイン
116 彼がどんなに悪者だったか、まあ聞いてごらん
117 Il servo padrone(主人下男)
118 下りにまかせてどんどんくだり
119 有徳の鑑
120 薔薇の騎士
121 オデットのためのレクイエム
122 モノグラム
123 意地の悪い学友
124 判じ絵
125 Olet(臭い)
126 I. Q.(知能指数)
127 Wishful Thinking(希望的観測)
128 退行三題
129 お得意へのサービス
130 灰色
131 おばあさんに化けた狼
132 ピーパー書店版
133 精神史への寄与
134 ユウェナーリスの誤信
135 禿鷹
136 露出症患者
137 ちっぽけな苦悩に立派な歌
138 Who is who(紳士名鑑)
139 配達不能
140 Consecutio temporum(時称関係)
141 La nuance/encor'(もう一度、ニュアンスを)
142 ドイツの歌はこれに従う
143 In nuce(要約的に)
144 魔笛
145 芸術まがい
146 商店
147 最新機関
148 屠殺業
149 言半ばにして
150 号外
151 オカルティズム批判テーゼ
152 濫用を戒める
153 終りに

訳注
訳者あとがき