虚像のアテネ
ベルリン、東京、ソウルの記憶と空間

A5判 / 566ページ / 上製 / 価格 9,680円 (消費税 880円) 
ISBN978-4-588-78611-2 C3020 [2019年06月 刊行]

内容紹介

プロイセンの建築家フリードリヒ・シンケルの新古典主義建築と、その核心原理である「テクトニック」が、それぞれ色合いの異なる三つの都市に導入される過程をテーマに、幻影としての西欧的近代性と、その脆さを逆追跡する試み。建築と都市計画は工学的技術である以前に言説であり、政治的テクノロジーでもあることを明らかにする。「記憶と建築が醸し出す不協和音の文化史」(原著副題)。

著訳者プロフィール

全鎭晟(チョン ジンソン)

1966年生まれ。高麗大学校(ソウル)文科大学史学科(1989)および同大学院(1991)卒業。1998 年、フンボルト大学(ベルリン)博士学位取得。現在、国立釜山教育大学校社会教育科教授。
著書:Das Bild der Moderne in der Nachkriegszeit. Die westdeutsche “Strukturgeschichte” im Spannungsfeld von Modernitätskritik und wissenschaftlicher Innovation 1948-1962, München: R. Oldenbourg Verlag, 2000; The Conservative Revolution: A Nihilistic Ideal of German Intellectuals, Seoul: Chaek-Se-Sang,2001(ハングル); The Making of Museum, Seoul: Sallim, 2004(ハングル); History Tells Memory: Cultural History of Memory for Theory and Praxis, Seoul: Humanist, 2005(ハングル); Their Lives Are Going On: About the Korean Atomic Bomb Victims, Seoul: Humanist, 2008(ハングル)

佐藤 静香(サトウ シズカ)

東北大学大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。東北大学大学院経済学研究科研究戦略推進センターを経て、青森大学総合経営学部准教授(社会政策、韓国労働経済)。
論 文:「韓国における大卒ホワイトカラーのキャリア管理と早期退職」(『大原社会問題研究所雑誌』第596 号)、「韓国財閥企業における大卒ホワイトカラーの賃金管理」(『大原社会問題研究所雑誌』第536 号)ほか。
翻 訳:尹辰浩「韓国の労働時間短縮過程と今後の課題」(『大原社会問題研究所雑誌』第573 号)、キム・ヨンハン「韓国の西洋史研究」(『思想』第1091 号)ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

 日本語版への序文
 序  文
 凡  例

プロローグ 「近代」というスライドイメージ

 ソウルの中心に落ちる影
 モダニティの裏面
 建築と都市景観、政治的テクノロジー

第Ⅰ部 プロイセン古典主義を求めて

第1 章 ベルリン、中部ヨーロッパのアテネ

 シュプレー河畔のアテネ──ギリシャブームとドイツの民族文化
 プロイセンとアテネ
 フリードリヒ広場

第2 章 民族と国王のあいだで
    ──プロイセンの宮廷建築家シンケル

 美的革命としてのプロイセン古典主義
 プロイセン古典主義の夜明け、新衛兵所
 王立劇場と旧博物館そして遊園地

第3 章 テクトニックとプロイセンの国家理念

 テクトニックの原理
 国家テクトニック 
 時間のテクトニック、歴史
 歴史主義者シンケル
 
第4 章 ドイツ帝国の歴史主義建築

 「文化民族」と歴史主義建築
 シンケルの継承者ゴットフリート・ゼンパー
 歴史主義建築の本領、ネオルネサンス様式
 帝国主義の尖兵、ネオバロック建築

第5 章 歴史主義と都市計画

 シンケルとレンネの新古典主義都市建築
 ホープレヒト計画案
 現代的都市計画の登場
 シュプレー河畔のアテネからシュプレー河畔のシカゴへ

第Ⅱ部 アジアのプロイセンをこえて

第1 章 ドイツ歴史主義建築の決定版、青島

 文化帝国主義
 ドイツ帝国の東アジア拠点都市青島
 イギリスとフランスの植民地都市との差別性
 青島の都市計画と歴史主義建築

第2 章 明治日本とプロイセン
    ──岩倉使節団の視線

 日本の西欧化
 『実記』の基本路線
 西欧世界の体験
 『実記』におけるプロイセンの位相

第3 章 国家的テクトニックとしての帝国憲法

 「アジアのプロイセン」を夢みて
 プロイセン式憲法の制定
 「国体」の具現としての帝国憲法
 西欧化と日本化
 日本の文化ナショナリズム

第4 章 東京の発明

 江戸から東京へ
 銀座煉瓦街の登場
 「官庁集中計画」と中心の発明
 「東京市区改正条例」

第5 章 「ヴィクトリア」あるいは「ヴィルヘルム」?
    ──明治時代の 公共建築

 イギリス人建築家ジョサイア・コンドルが及ぼした影響
 日本近代建築の代名詞辰野金吾
 ドイツ派の建築家妻木頼黄
 帝国の道具であり図像としての建築

第Ⅲ部 アテナの不気味なスライドイメージ

第1 章 都市計画と植民地主義

 帝国日本の偏執症と統合失調症
 日本式都市計画の誕生
 帝都復興計画から植民地都市計画へ
 満州国の首都新京の可視的モダニティ

第2 章 漢城から京城へ

 漢城府都市改造事業
 京城市区改修事業
 都市計画の合理性?
 「朝鮮市街地計画令」
 都市計画の植民地性

第3 章 シンケルに捧げるオマージュ?
    ──景福宮前に建てた朝鮮総督府庁舎

 「景福宮なくなるなあ」
 景福宮の理念
 景福宮の残酷な運命
 朝鮮総督府庁舎の登場
 朝鮮総督府庁舎の建築的特徴と空間性
 時空間の植民地化

第4 章 京城の歴史主義建築物

 度支部建築所が移植したプロイセン古典主義
 鮮銀前広場の台頭
 一九二〇年代の歴史主義建築
 京城のモダニズム建築
 メランコリーの都市

第5 章 総督府庁舎と景福宮のはざまで

 モダニティと植民地性の戦場
 テクトニックの戯画──汝矣島国会議事堂
 大韓民国の文化ナショナリズム
 歴史の立てなおし?

エピローグ 記憶の場と希望の空間

 シュプレー河畔のアテネの復活
 希望を夢みる空間

 謝  辞
 参考文献
 訳者あとがき