固有名の詩学

A5判 / 316ページ / 上製 / 価格 7,040円 (消費税 640円) 
ISBN978-4-588-49514-4 C1090 [2019年02月 刊行]

内容紹介

固有名はその対象と不可分に結びついた唯一無二のものである一方で、代替可能な単なる記号でもあるという両義性を有する。固有名を介して、現実と虚構が接続される。本書は中世から現代までのドイツ語圏の文学における固有名の機能を、〈産出性〉、〈虚構性〉、〈否定性〉という三つのキーワードのもとに、解明する。

著訳者プロフィール

前田 佳一(マエダ ケイイチ)

1983年生まれ。お茶の水女子大学基幹研究院助教。東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は近現代ドイツ文学、オーストリア文学。業績に『「人殺しと気狂いたち」の饗宴あるいは戦後オーストリア文学の深層』(編著、日本独文学会研究叢書126、2017年)、Nachleben der Toten – Autofiktion(共著、iudicium, 2017年)、「インゲボルク・バッハマンにおけるグレンツェ(Grenze)をめぐる一考察」(論文、『ドイツ文学』146号、2013年)ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

固有名の詩学のための序論 前田佳一

第Ⅰ部 〈産出性〉
第一章 作者と名前──ドイツ盛期中世俗語文芸における作者 山本潤
第二章 『ジーベンケース』における名前の交換 江口大輔
第三章 呼びかけ・主体化・服従化──トーマス・マン『トニオ・クレーガー』における名前 木戸繭子
第四章 リルケ作品における名づけと呼びかけ 山崎泰孝
第五章 インゲボルク・バッハマン『ボヘミアは海辺にある』における固有名の神話化作用 前田佳一

第Ⅱ部 〈虚構性〉
第六章 ヘルダーリンの頌歌『キロン』における固有名の機能 小野寺賢一
第七章 ジャン・パウル『自叙伝』における固有名「パウル」 江口大輔
第八章 ホフマンとディドロ──継承と呼応 宮田眞治
第九章 トーマス・マン『すげ替えられた首』における「体を表す名」と「神話の名」 木戸繭子
第十章 ウィーンの(脱)魔術化──ハイミート・フォン・ドーデラーとインゲボルク・バッハマンのウィーン 前田佳一

第Ⅲ部 〈否定性〉
第十一章 Nemo mihi nomen──あるアナグラムの系譜 平野嘉彦
第十二章 ベルリンは存在しない──ウーヴェ・ヨーンゾンにおける境界と名称 金志成
第十三章 断片としての名──インゲボルク・バッハマンにおける固有名の否定性 前田佳一
編者あとがき 前田佳一
執筆者紹介

■編者
前田佳一(マエダ ケイイチ) 
1983年生まれ。お茶の水女子大学基幹研究院助教。東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は近現代ドイツ文学、オーストリア文学。業績に『「人殺しと気狂いたち」の饗宴あるいは戦後オーストリア文学の深層』(編著、日本独文学会研究叢書126、2017年)、Nachleben der Toten – Autofiktion(共著、iudicium, 2017年)、「インゲボルク・バッハマンにおけるグレンツェ(Grenze)をめぐる一考察」(論文、『ドイツ文学』146号、2013年)ほか。[担当]序論、第5章、第10章、第13章

■著者
江口大輔(エグチ ダイスケ)
1976年生まれ。早稲田大学法学学術院准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専攻はドイツ文学。業績に「想像力の参照先」(論文、『シェリング年報』第22号、2014年)、「J・J・ブライティンガー『批判的詩論』における「真理」と「真実らしさ」」(論文、『文芸研究』第120号、2011年)、「ジャン・パウルの機知理論におけるBildについて」(論文、『詩・言語』第67号、2007年)ほか。[担当]第2章、第7章

小野寺賢一(オノデラ ケンイチ)
1977年生まれ。大東文化大学外国語学部講師。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(文学)。専攻はドイツ近代文学。業績に「ベンヤミンの〈凱旋記念塔〉──凱旋記念塔のフリーズの図像分析に基づく読解」(論文、『ワセダ・ブレッター』第25号、2018年)、「努力、コナトゥス、衝動──ヘルダーリン詩学におけるスピノザ存在論とフィヒテ意識哲学との総合の試み」(論文、『シェリング年報』第20号、2012年)、„Hölderlins Germania-Bild als Ausnahme.“ (論文、Neue Beiträge zur Germanistik. Band 9, Heft 1, 2010年)ほか。[担当]第6章

木戸繭子(キド マユコ)
1981年生まれ。中央大学理工学部准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。修士(文学)。専攻はドイツ語近現代文学、ジェンダー論。業績にMasken und Spiegel. Die Erzählstrategie in Thomas Manns autobiographischem Essay Im Spiegel.(論文、Neue Beiträge zur Germanistik. Band 15, Heft 1, 2016年)、「トーマス・マン『衣装戸棚』──隠された欲望の語りについて」(論文、『詩・言語』第82号、2016年)、「トーマス・マン『ルイスヒェン』──ドラァグ、赤い靴、そしてパフォーマティブな身体のスキャンダル」(論文、『ドイツ文学』第144号、2012年)ほか。[担当]第3章、第9章

金志成(キム チソン)
1987年生まれ。早稲田大学文学学術院講師。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専攻はドイツ文学。業績に『背後の世界』(翻訳、トーマス・メレ著、河出書房新社、2018年)、Dekonstruktive Momente in Uwe Johnsons Poetik(論文、Johnson-Jahrbuch 23, 2016年)、「「わたしは雲の上に行きたい」:ウーヴェ・ヨーンゾン『ヤーコプについての推測』における公的領域と私的領域をめぐって」(論文、『ドイツ文学』148号、2014年)ほか。[担当]第12章

平野嘉彦(ヒラノ ヨシヒコ)
1944年生まれ。東京大学名誉教授。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。文学修士。専攻はドイツ文学。業績にMiszellaneen zu Celan. Entwürfe zu Naturgeschichte und Anthropologie(単著、Königshausen & Neumann, 2018年)、『土地の名前、どこにもない場所としての──ツェラーンのアウシュヴィッツ、ベルリン、ウクライナ』(単著、法政大学出版局、2015年)、『ボヘミアの〈儀式殺人〉──フロイト・クラウス・カフカ』(単著、平凡社、2012年)ほか。[担当]第11章

宮田眞治(ミヤタ シンジ)
1964年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。京都大学大学院文学研究科博士後期課程退学。文学修士。専攻は近代ドイツ文学・思想。業績に『リヒテンベルクの雑記帳』(編訳、作品社、2018年)、『ヴァレリーにおける詩と芸術』(共著、水声社、2018年)、『ドイツ文化55のキーワード』(共編著、ミネルヴァ書房、2015年)ほか。[担当]第8章

山崎泰孝(ヤマサキ ヤスタカ)
1979年生まれ。島根大学法文学部准教授。東京大学人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専攻はドイツ文学。業績に『プロムナード やさしいドイツ語文法(改訂版)』(共著、白水社、2019年)、「幼年時代の反復―リルケ『マルテの手記』における想起の詩学」(論文、『オーストリア文学』30巻、2014年)、Die Poetik der Abwesenheit in Rilkes Aufzeichnungen des Malte Laurids Brigge.(論文、Neue Beiträge zur Germanistik. Band 12, Heft 1, 2013年)ほか。[担当]第4章

山本潤(ヤマモト ジュン)
1976年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は中世ドイツ文学。業績に「オーストリアにおける「ドイツ国民叙事詩」研究──『ニーベルンゲンの歌』の「オーストリア性」」(論文、日本独文学会研究叢書126号、2017年)、『「記憶」の変容──『ニーベルンゲンの歌』および『ニーベルンゲンの哀歌』にみる口承文芸と書記文芸の交差』(単著、多賀出版、2015年)、『カタストロフィと人文学』(共著、勁草書房、2014年)ほか。[担当]第1章