法政大学出版局では、2014年より「法政大学出版局学術図書刊行助成制度」を設け、全国の各大学在職の研究者および民間研究者を対象に、優れた学術的価値を有する専門的研究成果の募集を行っております。
2021年も、春に第8回目の募集を行い、局内および小局理事会における厳正な審査と、外部の審査員による評価を経て、本年度は下記3点の論文作品を刊行助成対象とすることに決定しました。
(1)
著者:二藤拓人氏
論文:『断章・断片(フラグメント)のメディア文化学──ドイツ・ロマン派フリードリヒ・シュレーゲルの書記行為と思考の諸相』
《選考理由》
「初期ドイツ・ロマン派の作家シュレーゲルの思考様式と表現方法の中枢にあった〈断片・断章〉形式による書記行為の実態を、読み書きの文化・技術、印刷・出版にいたる編集行為の分析を通じて明らかにする試み。ドイツ語圏発のメディア文化史的な視点から、シュレーゲルの断章執筆を当時最先端の知識人の実践として捉え、ヨーロッパの人文学史の中に位置づけようとする野心的な論考。伝統的な作家研究を超えて、著者の知的・文献学的鍛錬を示す作品として読むことができる。」
(2)
著者:崎濱紗奈氏
論文:『伊波普猷の「日琉同祖論」──「政治神学」から「政治」へ』
《選考理由》
「〈沖縄学の父〉伊波普猷の学問領域は、歴史学、民俗学、考古学、文学、言語学と多岐にわたる。学問が細分化した現在、伊波の〈沖縄学〉をトータルに分析することは困難だが、本論文は個別の学問領域にとらわれず「伊波普猷読解」に挑戦したという意味で意欲的な論考。日琉同祖論や柳田学・折口学との関係、反復帰論、沖縄/日本/アメリカをめぐる政治哲学・政治神学についての独創的な読解は、伊波研究のみならず東アジア史の地政学的問い直しをめぐって一石を投じうるものである。」
(3)
著者:河合一樹氏
論文:『大和心と正名──本居宣長の学問観と古代観』
《選考理由》
「宣長学における中国批判や日本という国の価値づけをめぐって、〈漢心〉〈大和心〉〈名〉とは何かを論じる。同時代の国学者・漢学者たちの説を広く引用しつつ、宣長との相互交渉や相違点をも明確にし、とりわけ研究史上これまで注目されずにきた〈名〉の論点を説得的に提示している。宣長はなぜ、外来の中国思想を批判したのに孔子だけは高く評価したのか、そしてその態度がなぜ『古事記』の読解作業と通底するのか等々、興味深い問いが数多く展開される。現代の漢字文化圏と日本の関係を考えるうえでも示唆を与える。」
書籍としての刊行は、2022年春〜夏を予定しております。
このほか、多数の力作論考や翻訳のご応募をいただきましたが、残念ながら今回はご期待に添うことができませんでした。ご応募いただきましたすべての皆さまに、心より感謝を申し上げます。
なお、次年度以降も引きつづき、本「刊行助成制度」を実施してまいります。2022年3月下旬以降に、当ウェブサイト上にて詳細を告知する予定ですので(締め切りは5月末)、積極的なご応募をお待ちしております。
2021年10月11日 一般財団法人 法政大学出版局